第九章(ニ)
第九章(二)
二人は、先程自分達が踏み潰して出来た道に沿って歩いていた。
辺りを注意深く見ながら進むが、他に道らしき道は見当たらない。
「気を付けろよ、さっきのヒルの沼だ」
足を止めて司が言うと、肩越しから晃一が顔を覗かせた。
「どうすんだよ、このまま渡るのか?」
「仕方ないだろ」
「気持ち悪ィな、他に道はねぇのかよ。それか、避けれない?」
足元の黒光りするヒルの群れを払うように手を左右に振った。
仕方なく司は片足で地面を確認するようにヒルを避けて突っついた。
「こっちが行けそうだな」
草の根元を踏み潰し、新たに道を作りながら数歩進んだ所で立ち止まってしまった。
「こらっ 止まるなよ。 早く行ってくれ」
焦ったような晃一の声に「ごめんごめん」と言うと、そのまま足を踏み入れた。
「どういう事だよ?」
司の後に続いて足を踏み入れた晃一は、新たに見つけた道に驚きを隠せない。
しかも、先程の道と違って細い木々の隙間を抜けるように遠くに続いている。
こちらの方がはるかに故意に作られたと言ってもいい。
「行こう」
司と晃一は何の疑いも持たず歩き始めた。
司にはまた何かに導かれているようなそんな気さえしていた。
小一時間程歩いただろうか。辺りの視界が開けた所で道が行き止まってしまった。
地すべりでもあったのだろうか。明らかに目の前の土壌が陥落している。
二人は恐る恐る下を覗き込んだ。
大木がなぎ倒され、そのてっぺんの葉は二人の頭の高さくらいまで沈んでいる。
積もった土砂や草木の向方は広けたところだったのだろう。余り多くの緑が見えない。
「下りてみよう」
「司、俺 皆を呼んで来るよ。それまで待ってろよ」
「は?」
意外な晃一の拒絶に、思わず呆気に取られた。
こういう場合、必ず慎重にになるのは秀也と紀伊也だ。晃一に限っては慎重のかけらさえ見えない。が、今回ばかりは違っていた。
明らかにこわばった表情で視線をうろつかせている。
「わかったよ」
司は仕方なく返事を返すと、安心したように晃一は肩を撫で下ろし、背を向けると走って元来た道を戻って行った。
珍しいな ・・・ あの野生児が
そう思ったが、
「ま、ムリもねっか。あんな事があった後だ」
と、呟いて晃一の後姿を見送った。
が、晃一の気配がなくなるとすぐに向き直って陥落した森を見つめた。
その表情は少し険しく、目にも幾分冷めた色が宿っていた。




