第九章(一)
第九章(一)
しばらく気が抜けたように皆座り込んでいた。
じわりじわり纏わりつくような暑さが更に彼等の気を消沈させる。
風が吹き、雲行きが怪しくなると、空の彼方では雷が鳴り始める。
ポツポツという雨音と共に、その雨足が速くなり、一気に滝のような豪雨となった。
これが熱帯なのだ。
やはり自分達はアマゾンのジャングルの中にいた。
大きな木の下で、大雨を無言でやり過ごしていた。
雨が止むと、途端に強い陽射しが差し込む。
辺りの木々の葉についた水滴が反射して、きらきら輝いていた。
強い植物臭が辺りを舞い、太陽の光で浄化されるように清々《すがすが》しい空気に変わって行く。
「綺麗な空気だな」
思わず司は呟くと、立ち上がって木の下から出た。
太陽の光が薄茶色の髪に降り注ぐと、その色が更に明るく反射する。
空を見上げたが、余りの眩しさに目を覆った。その時、ふと思い出したように溜息をついてしまった。
どっかで落としたんだ
いつの間にかサングラスを何処かで失くしていた。
もう3週間近くになろうとしているのに、そんな事にも気付かないでいた。
秀也、どうしてるだろうな?
数頭のジャガーに襲われ、パニックの中で別れた時の事が急に思い出される。
胸が締め付けられそうになって、それを打ち消すかのようにチッと舌打ちすると地面を蹴った。
「司、どうする?」
振り向くと、紀伊也が立っていた。何とも言えない複雑な表情だ。
やはり昨日の出来事に戸惑いを隠せないのだろう。
すぐに返事が出来ず、しばらく見つめ合っていたが、やがて司はフッと微笑んだ。
「考えてても仕方がない。とりあえず行くか」
そう言って広場を見渡した。




