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サバイバル  作者: 清 涼
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第八章(六の2)

「これは ・・・ 」


司は思わず目を見張るとそれを拾い上げた。

昨夜、族長シーメと最後に会話をした塔のような塚の前に来た時だった。

それは紛れもなくシーメの額につけられていた赤い石だ。

石は平たく、大きさは司の首にかかっているペンダントの石と同じくらいだ。

慌てて首のペンダントを外して見比べると、ペンダントの石の裏とその石とを合わせた。

間違いない。

それはペンダントの一部だった。しかも片隅には小さな穴まである。

司は革紐をほどいてその石の穴に通し、二つをあわせた。

ぴたりと重なった赤い石は太陽の光りに反射してルビー色に輝いた。

いつの間にか全員が司の後ろに来て、その石の美しさに見入っていた。

「綺麗な色だなぁ」

先程までの不安は何処かへ消え、感嘆の声を上げた晃一に司は、そのペンダントをかざした。

「お前はこれが何に見える?」

「何だろうなぁ。 ただの宝石には見えないけどなぁ、司は?」

「まぁ、ただの宝石じゃないだろうな ・・・ オレには炎の化身に見えるな」

「炎の化身? ・・・ ケっ キザな事を ・・・ って!? もしかしてまた何とかの伝説とか言うんじゃねぇだろうなぁっ!?」

晃一が思わず思い出して驚いたように言うと、全員の顔色が変わる。

「伝説? 伝説にこんなもんは出て来やしないよ。 関係ないだろ。 それに、この森は太古の森じゃない」

半分怪訝な顔で言うと、ペンダントを太陽にかざした。

再び光が反射する。

瞬間その光が塚に反射した。

一瞬の出来事だったが、誰もが一点にその視線を集中させた。

微かだが、白い煙のようなものがそこから上がった。

「何だよ、今の?」

「え? ・・・ まさか、ホントに炎の化身?」

晃一と司がきょとんと顔を見合わせた。

そして再び塚の一点に視線を送ったがそれ以上の煙は上がらない。どうやら不発だったようだ。

もう一度試してみようかと、司はペンダントを太陽にかざそうとしたが、慌てて手の中に収めた。

「どうした?」

「いや、やめとく。確かこの塚はファヴォスの神殿だと言っていた」

「誰が?」

「昨夜の族長シーメが。それに、これは蜂の巣だ」

司がそう言うと、全員の顔色が青ざめ、そろりそろりとその塚から離れる。

いくら昨夜の出来事が幻だといえ、頭上で響いた蜂の大群は彼らにしてみれば現実の出来事だったのだ。思い出すと背筋がゾッとする。


「とにかく引き返そう」

司はそれ以上の詮索をせずに元来た道を引き返した。



「はぁっ 良かったぁっ 」

元の広場に出た時、晃一は安心したように大きな声を出した。

「だって、通って来た道はそのままあったし、ここもそのまんま。おまけに時計だってまともに動いてる」

司に振り向かれ、慌てて付け加えた。

「そうだな」

司は素っ気なく返すと、奥の平たい石に腰掛けてタバコを出した。

火をつけながら自分達が今出て来た林を見つめた。

確かに自分が踏みつけ、その後ろから6人もの大人が踏み潰した植物の道はそのまま残っていた。

妙な空間に入っていたという感覚もなければ、そこから出たという感覚もなかった。

それに、自分達を歓迎してくれたファヴォス村もこの目で見たし、燃え盛る炎も温かかった。何よりもてなされたご馳走で空腹も満たされたのだ。

それなのに何故、一晩で変わってしまったのだろう。

しかもあの荒れ方はもう何年も経っているとしか考えられない。

 しかし、この石は・・・

煙を吐きながら首からぶら下げたペンダントを手に取ると、その先端に付いた赤い二つの石を見つめた。

 もう少し彼と話がしたかった

きっと彼は何かを知っている。自分に何か話したかったのだろうか。

今朝、あの場所で赤い石の片割れを見つけた時、ふと思った。

そして、太古の森の真実の湖で、サーベル・タイガーに言われた言葉を思い出す。

『お前の使命を果すのだ』

それが何であるのか今になって考えさせられる。

しかし、今の司の使命と言えば、皆を無事に東京へ帰す事だ。そして、自分も秀也の元に帰る事だった。


 オレの使命 ・・・


心の中で呟くと、再びタバコを吸い、ゆっくり煙を吐いた。



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