第八章(六)
第八章(六)
翌朝、目が覚めた全員は驚きのあまり声を出す事も出来ずに、辺りを見渡して茫然と立ち尽くしてしまった。
司と紀伊也でさえ、瞬きをすることさえ出来ずにいた。
互いに声すら掛ける事が出来ない。
昨夜の出来事は一体何であったのだろうか。
「司 ・・・、 どういう事だよ コレ」
ようやく晃一が声を発した。
「あ ・・・ うん、 あ、ああ ・・・ 」
言葉にならない返事しか出来ず、再び息を呑むと、もう一度目の前の光景に目を見張る。
人影一つ見当たらず静まり返った村は荒れ果て、昨夜までしっかりと組み立ててあった筈の建物は崩れ、熱帯の植物が絡みついている。
広場であった所は草が雑騒と生えており、中央にあった筈の大きな焚き木の跡はなく、こんもりと盛り上がった土に植物が繁殖していた。
文字通り廃墟と化した村の跡があるだけだった。
「夢、だったんですかね」
誰かが呟いた。
「けど ・・・ 」
誰にも応える事が出来なかった。
「司 ・・・、俺達 ・・・ 、どうなっちゃうんだよ」
晃一は自分の声と司の肩にかけた手が震えている事に動揺を隠せない。
声の限り絶叫してその恐怖を払い飛ばしたかった。
晃一が思わずその手に力を入れてしまった時、司がその手を掴んだ。
「晃一、落ち着け。 オレが居るから」
その言葉に全員の視線が司に集まった。安心しろと言わんばかりの笑みを浮かべて自分達を見ていた。
「司・・・」
「大丈夫だって、ちゃんと帰れるから。 全員で無事に東京に帰るから。とにかくオレを信じろ」
最後には励ますように力強く言うと、晃一の手を離して肩を叩いた。
「ちょっと見てくるから、紀伊也、ここを頼む」
司に励まされ気を取り直した紀伊也は頷くと、向方へ歩いて行く司の背中を見つめた。
元々肉付きのいい方ではない司の華奢な体が余計細く見えた。
しかし、能力者タランチュラとしての威厳は忘れてはいない。
紀伊也にとって、唯一本当に頼れる存在だった。




