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サバイバル  作者: 清 涼
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第八章(三)

第八章(三)


少し歩いた所で晃一が司に近寄った。

「なぁ 司、さっきから いやぁな音がするのは気のせいか?」

「ん? 気のせいじゃぁないな。 まぁ 気にするな」

前を向いたままそう応えられ晃一は 「そっか」 と素直に引き下がったものの、先程から頭上高くで聞こえる羽音を気にしながらも司の後について行った。

その内、後方のスタッフも時折頭上を気にしながら、時々後ろを振り返っては、最後尾で黙々と歩き続ける紀伊也の様子を伺っていた。

『司、凄い数の蜂だ。 どうする?』

歩きながら司にテレパシーを送り、頭上を警戒していた。

『分かってる。けど、襲って来る気配がないんだ。 とにかく刺激するなよ』


 !?


そう送ったところでハッと息を呑むと、思わず立ち止まってしまった。

「司ぁ」

思わず情けない声を出してしまった晃一は、司の前方に視線をやって、「ヒエっ」 と小さな悲鳴を上げると、司の背に隠れてしまった。

5M程先に、自分達の拳ほどの大きさの黒い塊が ヴーン という大きな音を立てて宙に浮いていたのだ。

二つの丸い目に、長く突き出た触覚。それに丸い体から伸びた足と尖った尾についている鋭い針。

間違いなく蜂だ。

「な、なんだよっ!? あの、ハ、ハチ・・・っ 」

今まで気にしないフリをしていたせいもある。一気に頭上に響く羽音が大きくなったような気がした。

思わず身震いすると、恐る恐る上を見上げた。

どれ程の数がいるのだろうか。想像もつかないおびただしい数の黒い蜂が、頭上5M程のところで全員を囲うかのように隊列を成して宙に浮いていた。

しかし、飛び交うことなく静止している。

「司っ!?」

喉の奥から搾り出すように司の名を呼んだ晃一の声はかすれている。

「刺されたら、間違いなく死ぬな」

「んな、悠長な事言ってる場合かよっ。 あのデカバチじゃなくたって上から来られたら終わりだろがっ」

半分呆れたように晃一は司の耳元で怒鳴ったが、やはりかすれるような声しか出ない。

『司っ』

紀伊也からもかされるように送られて来る。

『分かってるって』

目の前の危機的状況を理解してはいるが、どうすればいいのか考えにも及ばない。

とにかく彼等を刺激しないよう様子を伺うしかないのだ。

司は、頭上の大群よりも目の前の巨大な蜂の動きを見ていた。

すると、今までこちらを向いていたその巨大な蜂がくるりと反転し、背を向けるとそのまま動き出した。それについて行くかのように頭上の大群も動き出す。

その様子を固唾かたずを呑んで見守っていると、突然、巨大な蜂が再び向きを変え、物凄い速さでこちらに向かって来ると、距離にして50CMもないだろう、司の目の前で急停止すると、大きな羽音を立てて睨みつけるようにこちらを見たのだ。

司は悲鳴を上げる事さえ出来ず、大きく目を見開いたままその蜂を見つめた。

 ごくり と自分の生つばを飲み込む音が聞こえるようだ。

背筋に汗が流れて行くのが分かる。

晃一に至っては、司の両肩を掴んだまま、まるで石にでもなってしまったかのように、息をする事さえも出来ずにいた。

再び全員の頭上を黒いハチの大群が覆う。

少しの間、司の鼻先に静止していた巨大蜂は、再び向きを変え、ゆっくり進みだしたが、それを身動き一つせずに見守っている司に再び振り向くと威嚇いかくするような視線を送った。

「ついて来い、という事か・・・ 」

固まっていた全身の筋肉をほぐすように、ふっと軽く息を吐くと、一歩踏み出した。

「お、おいっ 」

晃一は驚いて両手に力を入れると司の肩をがしっと掴んだ。

「い、行くのかよっ ・・・!?」

「仕方ない。ヤツがついて来いと言ってるんだ。行くしかないだろ」

「でもっ」

「死にたいのかよ!?」

二人が小声で言い争っていると、更に大きな羽音を立てて体を反転させた。

ビクッとして二人は黙ると、司は晃一の手を払い除けた。

「分かったよ、お前の言うとおり、ついて行くよ」

諦めたようにそう巨大蜂に向かって言うと、司は歩き出した。

晃一はしばし茫然と、自分から離れて行く司の背中を見つめていたが、すぐ後ろの木村に突付かれて慌てたように司の後を追った。


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