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サバイバル  作者: 清 涼
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第七章(三)

第七章(三)


「何だかよく分かんねぇな」

何の疑いも持たず司の後について歩く晃一は、辺りにうっそうと茂る草木を見渡しながら、時折ガサガサと何かの生き物の動く音に怯えていた。

最後尾を歩く紀伊也は、時々自分の腕時計のコンパスを確かめながら注意深く辺りの気配を伺っていた。

「なぁ 司、ここ通った事あんの?」

「は? 何すっとぼけた事言ってんだよ」

司は振り向くと呆れた視線を投げ付けた。

「ちょっと休もうぜ」

疲れたように息を切らせて晃一が言うと、その後ろをスタッフが疲れた様子で歩いているのに気が付いた。

自分一人で歩いている訳でなはい。

司は少し溜息をつくと、どこか休めそうな場所を探した。一本道の少し先に、陽の射している所を見つけた。

どうやら地面は乾いていそうだ。

「あそこで休むか」

指さすと晃一は少し笑みを浮かべて頷いた。




「皆、疲れてんな」


タバコに火をつけ一服吸うと、俯いて座り込んでいるスタッフを見下ろし、司は煙を空に向かって吐き付けた。

濃い緑の隙間から青い空が見えた。

しかし、いくら見渡しても全くのジャングルに半ば諦めたように溜息をついて、今度は自分の足元に向かって煙を吐いた。

「司、どうする?」

傍に立った紀伊也は自分の腕時計を指しながら訊いた。

「もうそんな時間か。 とりあえず今夜の寝床を探さないとな」

歩きはじめて3時間くらいしか経っていないが、時計の針は2時を過ぎている。

陽の昇り具合といい、気温といい、正常だ。しかし、この正常さが現実すぎて生身の体にはこたえる。

司と紀伊也でさえ少し疲れを感じていた。

一体何処を歩いているのか検討もつかない。

アマゾン川に出たかと思ったが、結局川沿いを歩く事は叶わず、元来た道、いやそうではなく、森の中へ入らざるを得なくなってしまい、道なりに歩き続けていた。

しかし、こんな密林の中にも道らしき道というものがあったのか、誰一人として疑う事なく、その道なりに歩いていた。

それはまるで、目に見えない何かに導かれているようでもあった。


陽の光が幾分やわらいだ頃、突然密林を抜け出た。

抜け出たと言うのか、広場に出た。

半円を描いたようなその広場に岩がごろごろとしている。

平たい石の近くには大木を切ったような丸太が何本か転がっていた。

「何だか誰か居たみたいだな」

少し気味悪がって晃一は言うと、紀伊也の傍に行った。司の傍に行こうと思ったのだが、司は立ち止まらずそのまま転がっている岩や丸太を確かめるように見に行ってしまったからだ。

司は岩の上をでたり丸太を触ったりしていたが、立ち上がると辺りを一周見渡した。

その目付きからは何も感じて取れなかった。何故なら何の表情も出さなかったからだ。

 キーっ キーっ

獣なのか鳥なのか、甲高い声が高い木の上から聴こえ、それが辺りに響き渡る。

「今夜はここで休むか」

司は言うと、中でも一番大きな平たい岩の上に腰を下ろした。

ふぅ と一つ大きな息を吐いた。

そして、顔を上げると、皆も同じように腰を下ろして無言で大きな息を吐くと互いに顔を見合わせていた。

「さすがにバテるな」

司はタバコに火をつけると、隣に座った晃一に箱とライターを渡した。

「サンキュ」

晃一は安心したように受け取って火をつけると、ホッとしたように煙を吐いて、今度は紀伊也にそれを渡した。

紀伊也も同じように火をつけるとホッとしたように煙を吐きながら司に返した。

「なぁ 司、ホントに俺達あのヘンピな所から出て来たんだよな?」

一息つくと晃一は確かめるように、さっきから黙ったままタバコを吸っている司に訊いた。

「ん? ・・・ ああ、多分」

「多分って・・・、 頼りねぇなぁ。 でも、ちゃんと時間も合ってる訳だし、このクソ暑い空気も間違いねぇ訳だし」

「まぁ、な」

「珍しいな、司がそんなに自信ないなんて。 何か引っかかる事でもあるのか?」

呆れたようだが、少し不安な表情をした晃一に代わって紀伊也が訊いた。

しかし、その紀伊也にも確信は持ててはいなかった。

確かに太古の森から抜け出せてはいた。

だが、再び同じ道に入った時、本当にこれが現実にアマゾンの密林であるのかどうか断定する事は出来なかった。

歩きながら周囲に生殖する植物や小さな生物を観察したが、それは紛れもなく現代の図鑑に載っているものばかりだ。

しかし、紀伊也には何かが引っかかっていた。それが何なのかはっきりと分からない。

恐らく司にも感じているのではないだろうか。

司に訊けばそれが何なのか分かる気がした。

「ん・・・、よく分かんない。 けど、はっきりしているのは、確かにここは間違いなくアマゾンのジャングルだ、って事だ。 あの伝説の森ではない事は確かだ」

そう言い切ると、短くなったタバコを一服吸って煙を吐き、目の前に弾き飛ばした。

タバコの煙が弱々しく昇って行く。

しかし、司のその言葉に、スタッフは安心したように互いに笑みを浮かべて顔を見合わせた。


「司?」

「ん? ・・・ ん、 ん・・・」


紀伊也に問いかけられるように呼ばれ、曖昧あいまいな返事をすると空を見上げて一息吐いた。


「何処に行けばいいんだろうな、オレ達」


そう呟くように言うと、少し困惑したような紀伊也に視線を送った。

そんな司に紀伊也も返す言葉がない。

実際問題、地図もないこの広大な密林の中からどうやって抜け出たらいいのか皆目検討もつかないのだ。

頼るは自分の能力と勘しかない。

それに幾つかの不安も付きまとう。


「司、今夜はどうすんだ?」

不意に晃一に訊かれたが、これがその内の一つの不安だという事に気付かされる。

少しの沈黙が流れた。

「とりあえず・・・、 今から先にオレが寝とくから日が暮れたらお前らが寝ろ」

「火は?」

「 ・・・、 状況を考えろ。 どうやって薪を集めるんだ?」

その言葉に辺りを見渡して全員が沈黙してしまった。

濃い緑に囲まれ、枯れ木を見つけたが、じっとりと湿った地面に半ば食い込むように落ちている。

考えてみれば当然の事だ。

年中高温多湿と言われている熱帯雨林のど真ん中に居るのだ。渇いた枯れ木を探す方が困難というものだ。

「仕方がない、今日は我慢するんだ。 明日になれば何とかなる。 紀伊也、あのツルを編んでテキトーに作っておけ」

そう言って司は立ち上がった。

「司は?」

「ちょっと見て来る」

晃一に返事をすると、紀伊也には軽く視線を送っただけで、まず奥の方へと歩いて行った。


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