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サバイバル  作者: 清 涼
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第一章(二)

第一章(二)


「つーか、ふつー、あそこでスペードのエースを捨てるかよ」


密林の入口で拾った枝で足元を払いながら司はぼやいた。

「まだ言ってんのかよ。 まァ あれは・・・、 間違いだった、と思ってるよ」

「間違い?!」

とたんに司の片方の目が吊上がる。

「悪い悪い。 まぁ 仕方ねぇだろ。 ここまで来ちまったんだから。なっ 諦めて、ちょっとオフで遊びに来たつもりでハイキングでもしようぜ」

「もう、いいよ」

ぷいっと前を向くと溜息を一つ吐いた。

既に決まってしまった事にどうこう言うつもりはない。

それに、既に一歩足も踏み入れてしまったのだ。今更自分だけが引き返す訳にも行かない。

仕方がないとはいえ、先程から何か自分を取巻くように気味の悪い感覚を覚えていた。

何かが起きるような嫌な予感がするのだ。


昼前に村外れの一軒の民家の敷地から出発し、3時間近く歩いた所で休憩に入った。

「さすがにあちィなぁ」

晃一が首筋に流れる汗を拭う。

乾季に入ったとはいえ、雨季の残った湿気が立ち昇り熱い太陽がそれを照り付ける。

木陰を見付け、そこに腰掛けると用意された昼食に入った。


「あと、どれくらい歩くんだよ?」

うっそうと茂る木々の先に目をやりながら司が訊くと、スタッフの一人が現地スタッフに尋ねた。

「このペースで行けば、日が暮れる前には着くそうです」

「日が暮れる前って、・・・ あと半日はあるじゃねぇか・・・」

珍しく着けている腕時計に目を落として溜息をつくと、迷彩柄のジャケットのポケットからタバコを出して一本抜くと火をつけた。

他のメンバーも同じように無言でタバコに火をつける。

各々《それぞれ》の煙が辺りに広がる。が、その匂いもすぐに消え、密林独特の強い植物臭が再び彼等を覆う。

遠くの方で、鳥なのか獣なのか、キーキーと甲高い動物の鳴き声が聴こえる。

いくら耳を澄ましてみても、車の音や何かの機会音等の文明の音は一切聴こえて来ない。

むしろ、何か違う文明の音でも聴こえて来そうだ。


 ザザザっっ


突然何かが駆け抜けて行く音に一瞬静まり返り、全員が辺りを注意深く見渡した。

「晃一、お前の仲間だ」

司が冷めた口調で言った瞬間、キーっ キーっと威嚇するような猿の鳴き声が少し離れた頭上に響き渡った。

その瞬間、秀也とナオが吹き出して笑うと、他のスタッフも笑いに包まれた。


再び歩き出し、2時間程歩いた所で少し休みを取り、何気に上り坂になっている道をガイドが先導する。


「ちょっと待て」

「どうかしましたか?」


立ち止まるとスタッフが司に寄って来る。

「本当にこの道でいいんだろうな? さっきの道を右じゃねぇのか?」

今朝見せられた地図を頭に叩き込んではいるから間違いはない。

通訳のスタッフが慌てて現地ガイドに尋ねに行く。

「この道で問題ないそうです。右の道は先週の大雨で崩れているので通り抜けられないです。少し遠回りになりますが、夕暮れには着きますから安心して下さい」

そう答えるとガイドの後を追った。


 チっ 役に立たねぇ地図だな


何となく不安を募らせ、一度後ろを振り返った司だったが仕方がない。再び前を向くと、枝で足元を払いながら歩き出した。

少し開けた木陰で再び休憩に入る。


「はぁ、結構疲れんなぁ。今日一日で足が棒になりそうだな」

長めの前髪が邪魔にならないよう額に迷彩柄のバンダナを巻いた秀也が司の隣に立つと、ふくらはぎをポンポン叩いた。

「だな。 まだ朝からライブやってる方がマシだぜ」

少し苦笑すると、タバコを銜えライターを探す。

「それも疲れるけど、気分的にはそっちの方がいいな」

秀也は自分のタバコに火をつけると、司にライターを渡した。

「サンキュ」

言いながら火をつけると、向方で晃一が自分を呼んでいるのに気付き、そのままライターをズボンのポケットにしまい、煙を吐きながら晃一の方へと歩いて行った。


「どうした?」

「見ろよ、あれ。 すっげぇ 橋だろ。あんなの見た事ねぇよ。何かこえーなぁ」


晃一の指す方を見れば、腐れかかったような吊橋が一本、崖のような川に架けられている。

全員で渡ればその重みで橋が崩れ落ちてしまいそうだ。

近寄って下を覗くと、雨季の名残か細い川が急流に左から右へ流れている。高さは相当あるが、橋の長さは20M程だろうか、渡れなくもない。


「これ、落ちたら死ぬだろうなぁ」

「死にはしないだろうが、骨は砕けるだろうな」


少し身震いた晃一に司は煙を吐きながら答えると吊橋を見つめた。

太陽に照らされている筈なのに、何故か湿っぽく見える。

橋の先に目をやり、司は少し身震いした。

うっそうとした木々に囲まれ、渡った先が見えない。

まるで何かの入口のように自分達を待ち構えているように見えた。


「司」


その時、隣にバンドのメンバーの一条紀伊也が同じように橋の先をじっと見つめながら立った。

「何かありそうだな」

二人は一瞬目配せすると、再び橋の先に目をやった。


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