表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サバイバル  作者: 清 涼
39/150

第六章(五)

第六章(五)


「今夜、一晩乗り切れば何とかなるな」


いつものごとく皆を自分の能力で眠らせ、火を絶やさないように見守りながら司と紀伊也は辺りを警戒していた。


「司、今日のタランチュラの事だけど・・・ 」

「紀伊也 甘いぞっ、もっと気を張れっ。 何故あいつらを行かせたんだ!?」


司には紀伊也が率いて行ってはいない事くらい分かっていた。恐らく晃一が先頭を切って行ってしまったのに、仕方なくついて行ったのだろう。

しかし、余りに危険すぎていた。


「ごめん、でも・・ 」

「お前が先頭に立っていた訳じゃない事くらい分かっている。 けど、もっと注意しろ。 もし、あと一歩遅かったらられていたぞっ 」


自分が抑える事が出来るかどうか分からなかった。

この森で、紀伊也の使令である四つ足の生き物は紀伊也が抑える事が出来なかったのだ。

もし万が一、あの巨大なタランチュラを抑える事が出来なければ・・・。

あの時、司には恐ろしい程の恐怖が取巻いていたのだ。

しかしあの二匹の巨大なタランチュラは自分に従ってくれた。あのタランチュラがもし、現実の森の生き物だとしたら、この森から抜け出せたとして、果たして無事に済むかどうかだ。

司には新たな不安も抱えていた。


「司っ!?」

突然紀伊也が警戒したように辺りを伺う。

「分かっているっ、 気を抜くなよっ 」

二人は火を背に立ち上がると身構えた。

闇の中に浮かぶ二つの赤い眼がじっとこちらを見据えている。

しかしそれ以上近づく事なく、その姿を現さない。

どちらかが動けば戦いが始まる。 緊張が続いていた。

どれくらい経っただろうか、背後で燃えていた炎の勢いがなくなっている。

「紀伊也、火を守れ ・・・ ヤツはオレが見ている、 早くしろっ 」

紀伊也に何度かテレパシーを送っていたが、どうやら通じていなかったようだった。仕方なく小声で命令した。

紀伊也は後ずさりしながら火に近づき、薪を拾って中に入れた。


 グルルル・・・・


獣の低い唸り声がすぐそこまで聴こえた。

思わず司は一歩退いてしまった。


 ザザザっっっ・・・


その瞬間、横から何か大きな塊が飛び出して来たかと思うと、目の前まで迫って来たヴァンパイア・ウルフの傍を通り抜けようと走り出していた。


 グワっっ


 バリバリバリっっ ・・・・


瞬間、反転したヴァンパイア・ウルフは、飛び出して来た大きな塊に襲い掛かると牙を剥いた。

それを目にした時、司は体中から血の気が引くのを感じた。

それと同時に自分の心臓がバクバクと大きな音を立てて波打っているのを感じた。


「タ、ランチュラを・・・ 食ってやがる ・・・ 」


司の後ろでそれを見ていた紀伊也の背筋にも冷たいものが流れ、額や手の平は脂汗で滲んでいた。

二人はしばらく平常に呼吸をする事も出来ずにいた。

時々、喉の奥に何か詰まったようにあえぐように息をしていた。

巨大な蜘蛛を食べて満足したのであろう。

ヴァンパイア・ウルフは一度顔の周りを真っ赤な舌でめ回すと、闇の中に消えて行った。

 気配がなくなった時、二人は同時に力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。

いつも嫌味な程に冷静沈着な紀伊也でさえ、その顔色は青ざめ、肩で息をしていた。


 はぁっ はぁっ はぁっ ・・・


静かな暗闇に、パチパチと燃える炎の音と彼等の呼吸する音だけが妙に響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ