第六章(四)
第六章(四)
あの日から2週間が過ぎた。
恍惚と灯りのついた部屋で訳もなくテレビがつけられ、その前のソファで秀也は一人腰掛けて、火のついたタバコを見つめながらバーボンを飲んでいた。
一週間前に東京に戻って来てからは殆んど自宅を出る事はなく、一人部屋の中にいた。
別に何をした訳でもない。
時折かかって来る電話の相手をするだけだった。
一日中つけっ放しのテレビも、自分達の事を色んな情報を付け足して報道していたが、まるで他人事のように感じて見ていた。
あれは夢ではなかったのだろうか。
そう思って司の家に電話をかけてはみたが、呼び出し音が虚しく耳元で響くだけだった。
トゥルル・・・ トゥルル・・・
何回かの電話の音にようやく立ち上がると、それまでつけてあったテレビのスイッチを切ると、受話器を取った。
「秀也?」
「ああ、ナオ ・・・、 どうした?」
「あ、いや どうしてるかと思って。 大丈夫か?」
「ああ ・・・ ナオは?」
一服吸うと、短くなっていたタバコを灰皿に押し付けた。
ふぅー と煙を吐くと、壁に寄り掛かったまま座ってしまった。
「秀也、俺 明日実家に帰ろうと思って」
「そう」
「秀也も、そうした方がいいんじゃない? 少しゆっくり休んだ方が・・・」
「司は、・・・ あいつら、どうしてるんだろうな?」
「秀也、・・・ 俺 あいつら絶対生きてるって信じる事にしたから」
「ナオはっ、 ナオは見てないからっ ・・・ 司が、すげぇ大きなジャガーに倒されたんだぞっ、腕を噛まれてたんだ・・・っ 怪我して、もし、熱でも出して発作起こしたら・・・っ 」
唇を噛み締めると、片手で頭を抱え込んでしまった。
あの密林の中で持病の心臓発作を起こしてしまったらどうなるだろう。
医者もいなければ薬もない。
想像もしたくない苛酷な状況なのだ。
「秀也・・・、 辛いだろうが、考えるな。 あいつら三人はきっと一緒に居るから、心配するな」
「ごめん ・・・ ナオだって心配だよな、 ・・・ ごめん 」
「 ・・・ 」
「ナオ、俺も帰るよ」
「うん」
「また、連絡する ・・・ ありがとう 」
同じ仲間を失ったのに、自分だけが惨めになっていた。
それは、司を恋人としている事で特別だったのだろう。しかし、ナオにとってもかけがえのない親友であり、仲間なのだ。
秀也としてもどうしようもなく切ない思いで溢れていた。




