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サバイバル  作者: 清 涼
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第六章(三)

第六章(三)


先程の事には一言も触れずに火を起し終わった司は、無言で今度は反対側の「聖なる森」へ続く緑色の大きな葉をめくると、中へ入って行った。

しばらくして出て来ると、以前紀伊也が採って来た赤い実と共に、細長い葉を何本か手にしていた。

それらを皆に分けるように紀伊也に渡すと、自分はいつもの岩の上に腰を下ろしてタバコを一本抜いて、秀也のライターで火をつけた。

一服吸って煙を吐くと、目の前に紀伊也の手が差し出され、その上に赤い実が二つ乗っている。

一つを取ると、それを口に入れた。

そして、細長い葉の一本を手に取った。

「これも食っておけ。 解毒剤になる。 とりあえず予防だと思え」

そう言って口に入れた。

見た目よりずっと柔らかい。ほのかに苦味を感じたが嫌いではない。

全員が不思議そうに赤い実と細長い葉を口に入れた。

紀伊也も晃一も黙ったまま司を挟むように座って火を見つめながら食べていた。


「紀伊也、今日で何日になる?」


落ち着いたいつもの口調で尋ねられ、紀伊也は自分の時計に目をやった。


「14日目だな」

「 ・・・、 やっぱりな。 とうとう最後って訳だ」


諦めたように溜息まじりにタバコを吸うと、煙を吐いた。


「太古の森に足を踏み入れし者、二度目の七夜ののち、闇に閉ざされる。 ・・・ 明日の朝がラスト・チャンスだ。 明日を逃したらオレ達は永遠に闇の中に閉ざされる事になる。 ・・・ 迷う事なかれ、光の導くままに 」


「 ・・・、 で、その次は?」


途中で司が黙ってしまったので晃一は拍子抜けしたように前につんのめると、司に向いた。


「ここで終わり」

「は? ・・・、 何か中途半端だな。 どう考えても続きがあるように思えるけど」

「うん、そう思って調べようと思ったんだけど、時間がなくて出来なかった」

「はぁ」

「仕方ねぇだろ、すっげェ スケジュールだったんだぜ。 お陰で一曲も出来なかったんだからっ 」

「まぁ、な」

「帰ったらレコーディングだぜ? こんなとこで迷ってるヒマなんかホントはねぇんだから、ったく早く帰りてェよ 」

「だよなぁ ・・・、 俺もそろそろ帰ってまともにメシ食いてェよ」

司が思い出したように口を尖らせると、晃一は思い出したようにぼやいた。

「そう言えば俺達、この二週間まともに食べてませんけど、何だか大丈夫ですよね」

木村が思い出したように周りを見渡すと、他の者も一斉に賛同するように頷いている。

「まぁ、この不思議な森のお陰だな。 でも、もし明日、上手く抜けられたら、そうは行かないだろうな。 きっと現実に戻ってすぐにバテるぞ。 何せ本来ならここは赤道直下だからな。 2週間も無事でいられる事自体がおかしい位だ。 それなりの覚悟は必要だぞ」

脅しともとれる司の言葉に現実を突き付けられる。

「もし、仮に明日抜けられたとして、一体何処に出るんだろうな」

「それが問題だな、紀伊也。 何せ地図も何もないからな。 とりあえず勘を頼りに行くしかないって事だ。 上手くアマゾン川の支流に出られればいいが、一体何処に導かれるんだろうな、オレ達」

司は一服吸って煙を吐きながら火の中にタバコを投げ入れた。

「今夜はいつもより長いぞ。 明日に備えて寝ておくんだ」

「おお、そうだな。 けど司、明日はどうするんだ? せめてどうやって行くのか教えてくれ。 俺達にも心の準備が必要だぜ」

「心の準備?」

「俺じゃなくて、おれたち 」

晃一はスタッフを指した。それに、自分も知っていなければ、きっとまた何かヘマをし兼ねない。

「はは・・、それもそうだ。お前が一番危ないからな」

司は片目を吊り上げると嫌味たっぷりに晃一に視線を送る。

「いいか、まず陽が昇る前にはいつでも出発できるよう準備しておくんだ。 特に水の確保だ。 陽が昇る直前に光が射して来る。それがあの窪みに当たった時が勝負だ。光の当たる時間はほんの僅かだ。10分あるかないかだろう。その間に抜ける。恐らく100Mダッシュだな」

「また部活かよ」

「司、それはいいとして、石の代わりはどうするんだ? 何か反射するものが必要だろ、しかもあれだけの衝撃に耐えられる程の・・・」

朝の出来事を思い出して紀伊也は心配になった。 また自分の右腕を犠牲にするつもりなのだろうか。

「心配するな、代わりにはこいつを使う。 もったいない気もするが仕方がない。全員の命が懸かってるからな。しくはない」

そう言って左腕にはめていた時計を外すとそれを目の前にぶら下げた。

「文字盤はダイヤを特殊加工したものだ。どれ程耐えられるか分からないが、反射くらいはしてくれる筈だ。 少しは役に立つだろう」

「でも、もしそれが壊れでもしたら・・・」

「まぁ、仕方がない。 その時はその時だ。 それに、どうせここに置いて行くんだ。 どの道使えなくなる」

紀伊也の心配が別のところにあるのはわかる。この特殊な時計がこれから本当の意味で役に立つのだ。

「司のその時計といい、靴といい、すげェ作りだよな。 それこそ007の世界じゃねぇかよ。 ひょっとしてお前の友達にQでもいるのか?」

映画007の主人公・ジェームス・ボンドに色々な器具を発明しては提供している技術者の老人Qの事を言っているのだ。

「Q ねぇ・・・。 まぁ その次の R ってとこか・・・」

司と紀伊也は目を合わせるとクスっと笑ってしまった。


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