第六章(一)
第六章(一)
夜の戸張がようやく明けて来たようだ。
どちらが東なのか、薄っすらとネイビーからブルーに空の色が静かに変わって行くのが分かる。
「夜が明けて来たぞ」
二人は立ち上がると、東の空に向かった。
徐々に森の入口のように木々の間に道が出来始める。何処かで鳥のさえずる声も聴こえて来る。
何色ものブルーに覆われていた空の端が白っぽくなり、それがやがてオレンジがかって行く。
次第にそれが赤色を帯びて来ると、一筋の光が矢のように一直線に射して来た。
瞬間、眩しくて思わず目を細めたが、その光の射す方に振り向いた瞬間二人は、あっと驚きの声を上げると目を見張った。
「見ろっ 紀伊也っ、 光がっ・・・!? 光が吸い込まれて行くぞっ 」
司の予想を反して湧き水の中央に向かって射し込む光は、その窪みの中に吸い込まれるように一直線に伸びている。
「ああっっ!? 水が逆流し始めたぞっ 」
今度は二つに分かれて各々《それぞれ》の方向に向かっていた水の流れが逆流し始め、窪みの中へ光と共に吸い込まれて行く。
「どういう事だ!?」
「司っ!?」
二人の驚きの声に、一斉に皆が目を覚まし、射し込む朝陽に目を細めた。
「司っ、どうなってんだ!?」
一気に目の覚めた晃一は、目の前の岩壁に釘付けになってしまった。
目の前の窪みに向かって流れ落ちる筈の水が、逆上っているのだ。
突然、晃一の前に誰かが立ち塞がった。
思わず仰け反って、2,3歩引くと、司が自分の右腕を巻くり上げ、その手首に巻かれた金色のブレスレットを窪みの前にかざした。
ピカっ
強い光線を受けたように、陽の光が辺りに飛び散るように光った。それと同時に小さな悲鳴が聞こえた。
「司っ、見ろっ 」
紀伊也が叫んだ時、司の右手首に当たった一筋の光が左右に分かれ、真っ直ぐに各々の小川に沿って光が伸びた。
しかし、それも僅かな時間でしかなかった。
辺りが太陽の光に照らされると、二つに分かれていた光もいつの間にか消え失せ、周囲の明りの中に溶け込んでしまっていた。
そして、逆流していた水も元に戻り、朝の光を浴びてきらきら輝きながら澄んだように流れていた。
さわさわと心地好い風が吹く。
「司、大丈夫か?」
湧き水の前で手首を押さえてうずくまっている司の傍に紀伊也が近づいた。
「司?」
少し肩を震わせながら痛みを堪えているようだ。
あの時、何が起こったのか分からなかった。
ポト・・・ ポト ・・
何かが司の手の中から滴り落ちた。
!?
よく見れば、赤い血が落ちている。
右手首を押さえた左の指の隙間から血が流れ出て来ていた。
「司!?」
「大丈夫だけど、・・・、体が痺れて・・・・ っく 」
手首を押さえたまま、完全に座り込むと岩に寄りかかってしまった。
「紀伊也、オレの血に触るなよ」
言い終わるか終わらない内か、紀伊也が司の肩に手を掛けようとした時、背後に凄まじい殺気を感じて振り向くと、晃一が血相を変えて後ずさりしている。
脇にいたスタッフに至っては、アナコンダを見た時以上に恐怖に怯えた表情をし、皆立ち上がる事さえ出来ず、手を地面に付いたままゆっくり後ずさりしている。
晃一が脇へ反れた時、目の前の獣を目にした紀伊也の顔色が変わった。




