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サバイバル  作者: 清 涼
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第五章(二)

第五章(二)


「おーい 司、いい加減にしてくれぇ、これで三度目だぜ」


巨大なカエルに出くわした倒れた大木に腰掛けると、晃一は呆れ返って空を見上げた。

他のスタッフも黙ったまま疲れ果てた様子でうつむいて腰を下ろした。

大木の葉の向方にかすかに青い空が見える。 時折白い雲が流れていた。

サワサワと風が吹き、緑色の木の葉が揺れる。


 ふぅ


晃一は息を吐いたが、それも最後まで吐き切る前に止まってしまった。


 ・・・


思わず無言で、何かを発見してしまったようにそれをじっと見つめた。


「どうかしましたか?」


上を見上げたまま固まってしまったように動かなくなった晃一に気付いて、隣に座っていた西村が晃一を突付く。

そして、何も言わない晃一の視線を何気に辿った時、同じように見つけたくはなかったモノを見てしまったかのように口を開けたままそれを凝視してしまった。

上を見上げたまま固まってしまった二人に今度は大木にもたれて座っていた岩井が気付いて不思議そうに見上げると、あっと声を出さずに驚いて、両隣で足を投げ出して座っている木村と佐々木を軽く突付いた。そして、指で上を指し、二人が上を見上げた時、思わず悲鳴を上げそうになった佐々木を木村が息を呑んでそれを抑え、ここを離れるよう指で合図を送り、三人は這うようにゆっくりとその場から離れ、少し先で紀伊也と話をしている司の元へと腰を屈めながら歩いた。


 ん?


三人の様子に顔を見合わせた司と紀伊也は少し警戒しながら辺りを伺った。


「どうした?」

「つ、司さん、 ヤバイっすよ・・・ あそこ・・・」


少し震える手で岩井が大木に座って上を見上げている二人を指した。

「何か居るのか?」

青ざめて息を呑みながら頷いた三人に、司はここに居るように言って、足音を立てないよう神経を集中させると、晃一と西村の傍に歩み寄った。


“ヤバイな、紀伊也、援護しろ”


司は晃一と西村の頭上にとてつもない殺気を感じてそこだけに集中した。

既にその手にはナイフが握られている。

三人を守るように立っていた紀伊也の目にも鋭い光が走り、その手にもナイフが握られていた。


司に気付いた晃一は視線を半分だけ送った。 軽く頷いた司に合図するように目配せすると視線を元に戻し、今度は西村を軽く突付いた。

西村に半分視線を向けると、司の方に行けと合図した。

ゴクリと唾を飲み込んだ西村は頭上のモノに刺激を与えないように、滑り降りるように大木から離れると、そのまま這って司の方へと進んだ。

司は尚もゆっくり一歩一歩進むと、足元まで来た西村にあっちへ行けと顎で合図した。

その時、晃一の頭上にするすると下りて来たモノを見て、目を見張った。


 ア、アナコンダ!?


司は自分がゴクンと大きな音を立てて、生ツバを呑み込んだような気がした。

が、すぐに気を取り直すと、今度はその表情が徐々になくなって行く。

晃一の頭上1M程まで、真っ赤な色をして先が二つに分かれている舌がシュルシュルと気味の悪い音を立てて近づいた時、司の両の瞳は、この上なく冷酷な琥珀色が漂っていた。

同時に司の気配が消えた。

凄まじい殺気を司の背に感じた紀伊也の表情も失せていた。

そして、司の気配が完全に無くなった時、二人は同時に身構えた。


生きた心地がしなくなった、というのはこの事を言うのだろう。

晃一は目の前に下りて来た自分の頭と同じ大きさはあろうと思われる巨大な蛇に、目をそらす事も出来ず、そのままじっと、ガラスのように光る気味の悪いドロドロとしたようなその目を見ていた。

もし、視線を外してしまったら、その時が最後なのだろう、そう感じて目をそらす事が出来なかった。


晃一も司も紀伊也も、それ以上動く事が出来ずに、その巨大な蛇を見つめた。

彼等を取巻く気の渦も徐々に息苦しさを増して行く。

巨大な蛇の真っ赤な舌先もそれ以上下りて来ない。

ただ、太く長い鉄のような色をした胴体の表面だけがくねくねとうねっていた。

晃一の首筋や背筋には幾つもの汗が流れ落ちている。

上を見上げたままの首は少し痺れて来ていた。少し開いた口も既に渇き切っていた。


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