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サバイバル  作者: 清 涼
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第五章(一)

第五章(一)


「あれ?」


突然立ち止まると、司は辺りを見渡した。

すぐ後ろを歩いていた晃一は思わずぶつかりそうになってった。

「どうした?」

首を傾げながら不思議そうに辺りを見渡している司の顔を覗き込む。


「いや、 ・・・、ここ、通った事あるような気がして」

「そっか?」


晃一が怪訝けげんな顔をしたので、司は気を取り直して再び歩き出したが、数十メートル歩いた所でやはり立ち止まってしまった。

少し先の倒れた大木に目をやると、司は紀伊也を呼んだ。


「紀伊也、あれ 見覚えないか?」


顎で大木を指すと、紀伊也にも感じていたのだろう、納得したように頷いている。


「ああ、疲れた。 司、あそこで少し休もうぜ」


晃一は何か考え込むように黙ってしまった二人の脇をすり抜けると、倒れた大木の方へと歩いて行った。

取り残されたようなスタッフはどうしようか迷ったが、とりあえず晃一の後について行った。

晃一とスタッフが大木の上に腰掛けたり、それを背に座り込んだりして休んでいるのを見ていた二人は、やはりと顔を見合わせ、元来た道を振り返った。


「間違いないな、同じ道だ」

「どういう事だろうな」

「さあ? 分からんが、とにかく急いで戻らないと日が暮れちまう」


司は紀伊也を促すと足早に皆の所へ行った。


「時間がない、休憩は後だ。 とにかく行くぞ」


司に急かされ、晃一は仕方なく立ち上がるとスタッフに手で合図を送った。

今は一々驚いたり考えたりしている余裕はない。とにかく司に従うのみだ。

さっき西村に、『不安じゃないのか?』と訊かれた時、『そんな余裕はないし、考えるのはメ

ンドーだ』と答えたのは、彼等を安心させる為ではあったが、自分自身の本音でもあった。

司を先頭に再び列を成して歩き出したが、その速度も少し増していた。

いくらか歩いた所で、司は横目で大きな木に目をやり、紀伊也にテレパシーを送った。

最後尾を歩いていた紀伊也は、その大きな木にくくりつけられていたロープの切れ端に目をやると、辺りを警戒するようにそこを通り過ぎた。

陽の光りが幾分柔らぎ始めた。

「少し走るぞ」

司は振り向いて言うと、小走りに先を急ぐ。

皆も疲れていたが仕方がない。 司の後に続いて走り出したが、小一時間程走ったところでようやく止まり、息を切らしながらふと顔を上げた時、全員が あっ と言ったまま目の前の光景に釘付けになってしまった。


「どういう事だよ ・・・ 」

「そういう事だ」


驚いて目を見開いたままの晃一に司は素っ気無く答えると、目の前の崖から沸き出る水に両手を入れてそれをすくうと飲んだ。

そして顔を洗うと左右に顔を振って水しぶきを飛ばした。

「お前ら休んでていいぞ」

そういい残し、元来た道を戻って行ってしまった。


「司!?」


驚いた晃一は後を追おうとしたが、紀伊也にそれを制された。

「心配するな、司なら大丈夫だから。 とにかく休もう」

紀伊也も同じように湧き水を飲んで顔を洗うと、目の前の崖を見上げた。

まるで壁のように立ちはだかった植物の何もない岩崖。 

そこから湧き出る水は二つに分かれ、全く反対の方向に流れている。

間違いなく今日、この場所から出発した筈だった。

その証拠に彼等が火を焚いた跡まで残っている。火の消えた灰の上にはタバコの吸殻まで残っていた。

誰もが無言で座り込むと、その灰を見つめていた。

しばらくして足音がすると、司が枯れ木を腕に沢山抱えて戻って来た。

そして、灰の上に積み上げると火をつけた。

薄暗闇に赤々と燃える炎を皆、疲れ切ったように見つめていた。

今日一日何が起こったのだろう。

ひたすら歩き続けて何を得たのだろうか。


「司、どういう事か教えてくれ」


さっきからずっと考え込むように黙ったままタバコを吸っている司に晃一が少し苛立って訊いた。


「ん・・・」


ちらっと晃一を見上げたが、そのまま目を伏せると首を横に振った。


「司っ!!」

「ごめん。 説明出来ないよ、 オレにも解らない。 とにかく戻って来てしまったんだ。 ・・・ 何処どこで道を間違えたんだろうな・・・ 」


再びタバコを吸うと目を閉じて今日一日を振り返るようにゆっくり煙を吐いた。


少し枯れかけた枝を押しのけ、湧き水から流れ出た小川と言うにはふさわしくはないが、清水から赤茶色に変色した小川に沿って歩き出した筈だった。

太古の森で感じた透き通るような空気とは程遠く、時折腐臭さえ感じるようなその小川沿いを歩いていたが、目の前に立ちはだかったように現れた緑色の大きな尖った葉の群れをかき分けた時、いつの間にか道に出ていた。

そのまま道なりに歩いていた筈だったが、気が付くとさっきの小川はいつの間にか何処かへ消えてしまっていた。

少し不思議に思いながら、このまま道なりに歩いていればいつかはアマゾン川の支流に出られるものだと思っていた。

しかし、気のせいだったのだろうか、以前にも通った事のあるような感覚におちいり、辺りを見渡せば見覚えのある草木が立ち並んでいたのだ。

しかしいくら思い返してみても、小川に沿って歩いた時、他に道はなかった。

何処かで見落としてしまったのだろうか。


再びタバコを吸うと、ゆっくり煙を吐いて目を開けた。

目の前でゆらゆらと揺れる炎を見つめ、小枝を放り投げた。


「明日、もう一度行ってみよう」


パチパチという小枝の燃える音が暗闇の中で妙に響いていた。


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