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サバイバル  作者: 清 涼
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第四章(三の2)

「司、伝説にはまだ続きがあるだろ? 悪魔の住む森ではどうなるんだ?」


さっきから腕を組んだまま考えるように火を見つめていた紀伊也は、顔を上げると司に向いた。


「ああ、続きね。 魔界へと導く川はやがて大河となりて森を呑み込む。 魔の地へ行出いでし時悪魔の使いが現れ、おかす者それを喰らう。 だったかな? ああ、あと、魔の地へ赴いた者、われこれを喰らう。なんじ、それを見分けんぶんした時、魔の地で滅ぶ。 だと思った」


「その大河ってのはアマゾン川の事だろ。それはわかるけど、途中で出て来る「それ」とか「これ」って、何だろうな?」

晃一が少し納得したように言ったが、最後に出した疑問に首を傾げて司に答えを求めようと視線を送ったが、司は答えようとはしなかった。

「時間は戻るんですかね?」

少しの沈黙の後、岩井が恐る恐る訊く。

「だといいがな。 本当にここが出口なのかどうか自信ないんだよ」

溜息をつくかのように司は答えると、ポケットからタバコを出した。そして、先程入れた小枝の端をつまんで火をタバコの先につけると、再び投げ入れた。

「これも憶測だが、魔界と聖なる地は対照的だ。すなわち表裏一体と考えられる。すると、その接点が永遠に続いてる訳だ。 もし、オレ達がその接点に居るのだとすれば、どっちに転んでもどちらかに行ける訳だろ? とすれば、完全な出口っていうのが存在しないんじゃないかって気もするんだ」

「どういう事?」

「この伝説には、入口はあるけれど出口はないんだよ」


 えっ!?


言われてみれば、今までに司が語った話の中に、『入口』という言葉はあったが、確かに『出口』は出て来ない。つまり、入ったが最後、出て来られないという事なのだ。

「って俺達、永遠に迷宮入りか!?」

晃一は驚いてすっとんきょうな声を出した。

「そうかもしれないし、そうでもないかもしれない。とにかく夜が明けてから調べてみない事には何とも言えないな。とにかく今日はここまでだ。寝ようぜ」

一服吸って煙を火に向かって吐くと、右手の平を広げて振り払った。




辺りをすっかり暗闇に包まれ、赤い炎だけがゆらゆらと動いている。

何の騒音も聴こえず、静かに湧き出る水の音だけが響いていた。

ふぅーっと、ゆっくり煙を吐くと、星だけが瞬く夜空を見上げた。

この夜空は果たして現実のものなのだろうか、それとも遥か昔へと続く太古の空なのだろうか。


『太古の森の空も太古なの?』


そんな質問をした覚えがある。

あの時亮は何と言ったか。


『空? 空か、空は変えようがないからな。今も昔も同じじゃないかな』


確かそんな事を言っていた気がする。

永遠に変わらないもの、それは何だろう。それに、変えてはいけないもの。

それを考えなければいけない事を、太古の森は教えてくれているのではないか。

亮がそんな事を独り言のように言っていたのを思い出す。

「何だろうな?」

再び煙を吐いて夜空を見上げた。

ふと、気配に気付いて隣を見ると、紀伊也が半分呆れたようにしかし、心なしか心配そうにこちらを見ていた。

「ふっ、けたのか」

司は少し苦笑したように笑うと、別に気にすることなくタバコを吸った。

「司、今夜は俺が起きてるからお前は寝てくれ」

「そうしたいけど、暗い内は無理だよ」

煙を吐きながら首を横に振ると、短くなったタバコを火に投げ入れた。

「もう10日も寝ていないんだ。いくら司でも体が持たない」

「わかってるけど、仕方ない。それに、特に今夜はダメだ」

「司?」

「伝説の中に悪魔の使いって出て来るだろ。 これが何なのかお前にには分かるか?」

「悪魔の使い?」

「ヤツら、原住民の間で悪魔の使いと呼ばれている実在のものがいる」

「実在? だって伝説だろ? ・・・、 まさか・・・ 」

「そうさ、タランチュラの事だよ。 ヤツらは自分の縄張りを侵す者を嫌うからな。一歩出れば格好の餌食えじきだ。それに、今夜はデカイのが一匹すぐ近くまで来ている。ヤツを抑えられるのはオレだけだ。だから今夜はどうしても寝られない」

不意に司に凄まじい殺気を感じた。

炎に浮かび上がるその琥珀色の瞳は、この上なく冷酷に彼等を従わせるように見据えている。

司の背後の奥の方でガサガサと音が聴こえている。

紀伊也は息を呑んで様子を伺っていた。

「俺も起きてるよ」

「好きにしろ」

冷たく言い放つと、チッと舌打ちして自分の背後に気を送り続けた。




辺りが薄っすら明るくなって来ると、司の背後の黒い森が静かになった。

取巻いていた殺気もなくなり、湧き出る水の音だけが静かに優しく響いている。

ホッとしたように二人は息を吐くと、目を合わせて苦笑いを浮かべた。

が、急に力が抜けたように司は目を閉じると、そのまま倒れるように横になってしまった。

それを見ていた紀伊也も目を閉じると、静かに寝息を立て始めた。


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