第四章(二)
第四章(二)
昨夜、司から聞かされた『太古の森伝説』に興味を抱いたのか、今までのような不安と恐怖は何処かへ消えていた。ただ、やはり不安は残る。
本当に出口は見つかるのだろうか。 果たして生きて戻れる事は出来るのだろうか。
何処でそれを聞いたのか分からないが、司は何かを知っている。
とにかく今はその司を信じてついて行くしかなかった。
「やはり暑いな」
シャツの胸元を軽く煽るとふうと息を吐いた。
「あそこで休みましょうか」
司のすぐ後ろを歩いていた木村が少し先の木陰を指した。 見ればこれまた見た事のない大きな葉が屋根のように広がっている。
少し苦笑したが、殺気が感じられない事を確認して、「そうだな」と頷いた。
一行はその下で足を伸ばして座り、昨日汲んでおいた水を飲んだ。
不思議と甘く感じられるその水は疲れを一気に癒してくれる。
ふぅと安心したように息を吐いて目を閉じた瞬間、深い眠りに誘われる気がして司は、ハッとしたように目を開けると、ポケットからタバコを取り出した。
腕の時計の針を見て溜息をついた。
さっき目にした時には10時を指していたが、今は既に4時を回っている。しかし、感覚的には2時間と経っていない。日付も15日に変わっている。今が午前なのか午後なのかそれすら分からない。
「時計の針は素直だな」
晃一が同じように自分の時計を見ている事に気付いて呟くと火をつけた。
誰もが無言で休んでいたが、ふと紀伊也は立ち上がると「ちょっと見て来る」と、先を歩いて行った。
「いいのか?」
「心配するな」
晃一の心配をよそに司は特に気にする事なくタバコを吸うと、疲れたように煙を吐いた。
あれから二晩しか経っていないが、現に5日は経過している。
感覚的にはそれ程の疲労はないが、実際皆の体には相当の疲労が溜まっていた。
『司』
紀伊也の声が聴こえ、顔を上げた。
タバコを消してからいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
皆の自分を気遣う視線から逸らすと立ち上がった。
「晃一、ちょっと行って来る。すぐ戻って来るからここから動くなよ」
「ちょっ、どこ!?」
少し慌てた晃一だったが、あっという間に走って行く司を追いかけようとはせずに見送ると溜息をついた。
「司さん、大丈夫ですかね? 相当疲れてるみたいでしたよ」
木村が司の後姿を見ながら言うと、西村も頷いた。
「それに、女性の体じゃキツイですよ」
晃一はその言葉に一瞬はぁと溜息をつきそうになったが、それを呑み込んで
「心配するな。 こういう時のアイツは女じゃねぇから」
と、きっぱり言って、司の去って行った方を見つめた。
「それに、俺達が毎日どんなスケジュールで動いてると思ってんだよ」
と、付け加えると軽くスタッフを睨み付けた。




