第二十四章(一の2)
本当に見覚えのある光景だ。
現実と太古の森の境界線をひたすら歩き続け、辿り着いたのがこの場所なのだ。
この光景を見ていると、、今まで自分達に起こった不思議な幻想のような世界と悪夢のような出来事は、全てここから始まったような気がしてならない。
何かに導かれるように進んでいた道も最後に見た伝説の絵も、結局自分達の信じた妄想だったのだという気がしてならなかった。
聖なる森が自分達のこの現実の世界ならば、その入口は何処にある?
「ここだ」
司は確信したように口にすると、くっく・・ と笑い出してしまった。
「どうした、司?」
ふと、不安になった。
まだ毒が抜け切れていないのだろうか。それとも暑さと疲労にやられてしまったのだろうか。
「紀伊也、あと少しで帰れるぞ」
笑うのをやめ、急に真顔になって言うと、口の端をニっと上げた。
「え?」
「この道を真っ直ぐ行けば、帰れる」
森の奥へ続く細い道を真っ直ぐ指すと、自分の指の先にある森の奥を見つめた。
「この道を戻るのか?」
「戻るんじゃない、進むんだ」
「進む? この道を・・・。 ここが、入口なのか」
紀伊也も司の指先にある森の奥を見つめると、自分が信じた司に目をやった。
互いの真実を自分自身で確認し合うように二人は頷いた。
もうこれ以上自分に不安になる事もないだろう。あとは、自分を信じて前に進むだけだ。
決意したように紀伊也が立ち上がりかけた。
「でも、ちょっと待って」
それを制すように司は言うと、苦笑いを浮かべた。
「だいぶ疲れちゃったから、少し休みたい」
言いながら、はぁはぁ言わせている。
無理もない。この森に迷い込んでから幾日が経ったのだろう。
最初から殆んど飲まず食わずで皆を守りながら歩き続けたのだ。それに、度重なる不可思議な出来事のお陰で相当神経もすり減っている。能力が使えなくなる程にまで体力も衰えているのだ。
全身に張り詰めていた神経の糸もここへ来て緩んでしまったのだろう。
今の司にはこれ以上歩く事はおろか、立ち上がる事さえも出来なくなっていた。
「分かった。 司は休んでいてくれ。薪を集めて来るから」
紀伊也は立ち上がると、辺りを散策し始めた。
「悪ィな」
そう呟いた司は倒れるように横になると目を閉じた。




