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サバイバル  作者: 清 涼
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第二十一章(ニ)

第二十一章(二)


 しばらく紀伊也は気が抜けたように湖を見つめていた。

柔らかい陽射しが湖に降り注ぐ。陽の光の色は変わることなく、同じような光が辺りに広がっていた。


「紀、伊也・・・」


我を忘れかけたようにぼぉっとしていると、背後から自分を呼ぶ小さな声が聴こえた。


 え?


思わず振り向くと、上半身を起こした司と目が合った。

まだ体がふらふらするのだろう、大きな息を吐きながら呼吸を整えている。

「司っ!?」

目を見張って慌てて駆け寄ると、それが幻でもいいと思いながらも司を抱き締めた。

「司っ」

「紀伊也、オレ・・・」

幻ではなかった。司の体から温かい気を感じる。

生き返った司の肩に顔を埋めると、思わず泣き出してしまっていた。

そんな紀伊也に戸惑ったが、司はしばらくそのまま紀伊也のむせび泣く声を聞きながら空を見上げた。

青い空がぼんやりと暖かい光に包まれている。まるで春の陽気を感じるように優しい光だ。

だが明るいのに、その空には太陽の光が見えない。

首を動かしてそっと辺りを伺うと、紀伊也の肩越しにきらきら光る湖が見えた。

何処かで見覚えのある光景だ。

とても懐かしい。

「紀伊也、ここは?」

まさか、と思いながら恐る恐る聞くと、涙で真っ赤に腫らした目を上げながら紀伊也がポツリと言った。

「聖なる地、だよ」

その言葉に息を呑んだ。

「・・・、え? ・・・、今、何て言った?」

「聖なる地。 あれは True Lake 」

「ま、さかっ・・ True Lake って!?」

再び発作を起こし兼ねない程息を呑んで驚くと目を見張った。

「ちょっと待てっ、じゃあここはっ!? オレ達またっ!?」

思わず紀伊也を突き放すと立ち上がった。一瞬めまいがしたものの、二本の足で何とか立つと、目の前の光る湖を見つめて茫然としてしまった。

いつの間にこんな所へ来てしまったのか。

あれから自分はどうなってしまったのか。

ヤニ族の村から連れ出され、途中巨大なアナコンダに出くわし、男が呑み込まれてからの記憶が全くない。

しばらく茫然と立ち尽くしていたが、やがてハッとしたようにくるりと向きを変えると歩き出した。

よろけるように二、三歩歩いたが、突然走り出した。

「司っ!?」

今度は紀伊也が驚いて司の後を追う。

柳のような植物のカーテンをくぐり抜け、坂道を上っていく。途中、前を行く司は側の木を掴んで体制を保つように息を整えていた。その度に「大丈夫か?」と声を掛けたが、司はこちらを見る事もなく、必死になって上っていた。

下りた時の倍以上は歩いているだろう。無理もない、以前と同じだ。

あの時はこの坂で一日を費やしたのだ。

はぁ はぁっと司の吐く息の音が大きく響く。立ち止まっては木に掴まり息を整えるが、次第に両膝が折れ曲がっていく。紀伊也は咄嗟に司の体を持ち上げると肩に担いだ。

「ごめん・・・、でも休んでいる間はない」

かすれるように言われ、紀伊也は理由を問いただす事もしないまま頷くと黙って歩き出した。

そしてようやく大きな葉をくぐり抜けて広場に出ると、二人ともその場に崩れるように座り込んでしまった。


 はぁっ はぁっ はぁっ ・・・・


二人の疲れた息遣いが響く。

二人同時に顔を上げた時、空は夕焼けに包まれていた。

驚いたのは紀伊也の方だ。司を運んだ時にもうじき夕方になろうとしていたのだ。普通ならこの夕焼けの空になるのは、あれから一、二時間と言ったところだろう。

紀伊也は訳が分からず茫然と真っ赤に染まった空を見上げた。


 泉の水を飲みながら紀伊也は、皆をアランに引渡してからの事を簡単に司に話して聞かせた。

日が暮れ、パチパチと小枝の燃える音が響く。

紀伊也は火を起こし終わると、手にしていたライターを司の手の上に置いた。

「あ・・・」

秀也のライターに目を落とし、少し笑みを浮かべた紀伊也と目が合った瞬間、顔を伏せてぐっとライターを握り締めた。

「司、帰ろう」

紀伊也は隣に腰を下ろすと、少し震える司の肩を抱き寄せた。




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