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サバイバル  作者: 清 涼
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第二十章(ニ)

第二十章(二)


「これが聖なる森の入口」


今、自分達が出て来たシダの群れを見つめながら紀伊也は呟いた。

しかし、とても肝心な事を忘れている事に気が付くと、ハッとしたように司を見つめた。


 碧き石 朝陽浴びし時 聖なる泉湧き出ずる

 一方は聖なる地へ 一方は悪しき道へ時が分かつ

 いずこへ出ずるかは その光の定めるところにある


「光の定めるところ・・・」

以前、太古の森から抜け出す時には、泉から射す光に導かれて全速力で走り抜けた。

しかし、逆にここから太古の森へはどうやって入れというのだろうか。太古の森の入口が開くのは、伝説のタイガーが現れた時だけなのだ。

他に入る方法は伝説には出て来ない。

「どうやって入ればいいんだ?」

成す術がなく、途方に暮れて目の前に垂れ下がるシダの群れを見つめた。

そんな紀伊也の背中には真っ赤に焼けるような夕陽が射していた。


 こんな時でも人は眠る事が出来るのか。いつの間にか眠ってしまった紀伊也が目を覚ました時、辺りは暗く夜空には満点の星が輝いていた。

星の灯りで遠くを流れるアマゾン川が確認出来る程だ。

これが遥か昔からの本当の夜空の姿なのだろう。空一面が数え切れない星で埋め尽くされている。

時々、きらきら光る星の間を流れ星がすーっと通り抜けて行く。

紀伊也は今抱えている不安を忘れ、太古より変わらない夜空をしばし眺めていた。

 黄金色に瞬く星達の色が徐々にあせて来ると、夜を駆け巡っていた生き物達も寝床に帰り始める。そして、全ての生き物が寝静まってしまったように辺りに静寂が漂うと、空の色が濃紺から深い青へ、白味を帯びた青へと変わって行く。夜明け前の空の色は何とも言えない静かな青色をしている。

「もうすぐ夜明けだ」

夜が明け、朝陽が射した時どうなるのだろう。

紀伊也には全く想像が付かない。しかし今は、どうしても司を聖なる森へ連れて行かなければならない。

司を助ける方法は一つしかないのだ。他には何の選択も出来なかった。

 

 そのうち、辺りが薄っすら明るくなって来た。

太陽の光は一瞬にして射して来る。一筋の光が見えてからその光が周りの光に溶け込むのもあっという間だ。

辺りを見渡しながら息を潜めると、入口のシダの葉に視線を動かして息を呑んだ。


 え?


葉の隙間から光が見えた気がした。

衝動的にその葉をめくり上げると、確かに奥の方から光が近づいて来る。しかしそれは、瞬時にして射るように放たれた。

まるで光の矢だ。

「司っ!?」

思わず声を上げて光の矢先を辿たどる。

その光は周囲の光に溶け込む事なく、一直線に司の腰辺りを射していた。

「光がっ!?」

瞬時にして紀伊也は考えるまでもなく、司を抱きかかえると躊躇ためらわずシダの葉の中に飛び込んだ。そして、全速で駆け出した。途中、後ろを振り向く事なく、伸びて来る一筋の光に向かって走った。

まるでその光に吸い込まれて行くように、紀伊也の後ろに光はない。

バチバチっと枯れ枝を踏み潰す音、駆けた衝撃で枯れ枝が折れる音だけが響いている。二人とも手や顔は傷だらけになっていた。

が、目の前の横倒しになった大木を乗り越えた時、急に目の前が開け、明るい陽の光のもとに出ると、紀伊也は倒れるように崩れ落ちてしまった。





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