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サバイバル  作者: 清 涼
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第十九章(四)

第十九章(四)


 ザザーーっっ・・・


辺りの葉に勢いよく落ちて来ると、雨音が激しさを増す。

耳元にかかる司の熱い息と共に髪や首筋から滴が流れて来ていた。

「ごめん、司、もう少しだから頑張ってくれ」

雨に濡れた自分の手が滑りそうになって支え直すと、何の反応も示さない司に声を掛けた。

暗雲に覆われた大地に豪雨が降り注ぎ、うっそうと生い茂るジャングルは更に闇に閉ざされる。

だが、幸いにもその生い茂った植物に大雨をしのぐ事は出来た。

次第に紀伊也の歩く速度は増したが、立ち止まって息を整え、司を背負い直す回数は増えていた。

垂れ下がる植物を常に片手で避けていたからだ。

そろそろ腕が痺れて来た頃、御簾みすのように垂れ下がった大きなシダの葉をめくり開けると、ようやく見覚えのある広場に出る事が出来た。


 ふぅっ


大きな息を一つ吐くと、大木の下の平たい石の上に司をそっと寝かせた。

びしょ濡れになった上着を脱がせ、司のお陰でほとんど濡れずに済んだ自分の上着を司に掛けると、司の上着をぎゅっと絞った。


 ボトボトボト・・・


大量の雨水が地面に落ちる。

それを見ながら紀伊也はどうしようもない苛立ちにぐっと奥歯を噛み締めた。

少し上に視線を移し、次に自分の足元を見る。大きく広がった枝と葉のお陰で濡れずに済んでいる事にホッとすると、後ろにいる司に視線を移した。

相変わらず、はぁはぁと苦しそうに短い息をしているのが分かる。

今はどうしてやる事も出来ないもどかしさにうつむいて溜息を付きかけた。

その時、

 

 殺気!!?


自分に襲い掛かる凄まじい殺気を感じてハッと目を開けた。


 っっ!!?


一瞬、悪夢でも見ているのかと思う程に息を呑んだ。

だが、鉛色をした大きな三角の頭がグワっと真っ赤な大きな口を開けた時、司は両目を大きく見開いたまま絶叫していた。


 うわぁぁぁぁっっっっ!!! ・・・


「司ぁぁっっ!!」


絶叫と共に紀伊也の悲鳴が上がった。

殺気を感じた一瞬だった。

大木の上から突然アナコンダの頭が現れ、大きな口を開けて身動き出来ない司に襲い掛かったのだ。

次に見た紀伊也の視界には、アナコンダの口に挟まれた司が両手でその口を必死で押さえていた。


「司ぁぁぁっっ!!」


ざらっとする手の感触など構っていられない。腹に当たる舌の感触などどうでもいい。自分の置かれたこの状況を冷静に考えてなどいられない。

次にこの口が開いた時が最後なのだ。

ベルトに食い込む二本の牙がぐいっと更に食い込む。

アナコンダの長い胴体が動き、いつ司の体に巻きつこうか定めている。

徐々に自分の足がアナコンダの口の中に引きずり込まれて行く。

 くーーっ・・・

自分の顎が砕けるのではないかと思う位に歯を食いしばり、両手に力を込めた。

もし、一瞬でもこの力を抜こうものならその一瞬の隙に飲み込まれてしまう。

ほんのわずかな気の差が運命を分けていた。

時間にしては数分とは経っていない。だが、何時間も経っているような感覚だ。

元々死んだように気を失っていた体だ。咄嗟とっさに出た力だったのだろうが、既に限界は超えている。

両手に込めた力も次第に弱くなっていく。

「助けて・・・」

思わず呟いた。

その時、司の力が弱くなったのを感じ取ったのか、アナコンダの体に違う力が入ると、再びその大きな口がグワっと開いた。


 ズガーーンっっ・・・・


ほんの一瞬だった。

次に司の体がアナコンダの口の中に入った時、そのままするりと抜けるように司の体は宙を舞い、地面に落ちて行った。


 ドサっ


それと同時に ズザザザ・・・ というもの凄い音と共に、ドサーっと大きな鉛色をしたアナコンダが地面に落ちた。

だが、その体長は悠に10Mは超えるであろう巨大なアナコンダが頭からどす黒い血を流しながらのた打ち回ると、周囲には泥水が飛び散り、暗雲に覆われたこの広場がまるで地獄のような絵図へと染まる。

降りしきる雨が更に恐怖へと追い込んで行く。

「司っ!?」

紀伊也は右手に拳銃を持ったままのた打ち回るアナコンダの向こう側へと走った。

そして、走りぬけ様にもう一発、アナコンダの頭に発砲すると、アナコンダの動きも次第に衰えて行った。

「司っ!?」

落ちた場所の辺りに司の姿が見えない。

「司っっ!?」

大声で叫びながら辺りを見渡すと、少し先の大木の下に横たわっているのが見えた。

そのかたわらにはジャガーもいる。

地面に落ちるほんの一瞬前に、ジャガーが司の体をくわえ、アナコンダの巨体から守っていたのだ。



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