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サバイバル  作者: 清 涼
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第十九章(三)

第十九章(三)


 翌朝、強い陽の光に目を覚ました紀伊也は、まず司の様子を伺った。昨夜から症状は変わっていない。

夜中に何度か池の水で冷やしたタオルを代えていたが熱の下がる事はなかった。むしろ上がっていると言ってもいい。

更に熱くなった額に手を当てると、池の水で再びタオルを冷やし、それで顔をゆっくりいた。そして、今度は自分の顔を洗うと池の水を水筒に入れ直し、昨日もぎ取っておいた果実を一つかじると、残りをアランからもらった小さな皮袋に入るだけ詰め込んだ。

「司、頑張ってくれよ。一か八か、とにかく可能性に懸けてみる」

本当にもう一度、あの伝説の森へ行けるのかどうかも分からない。とにかくやってみるしかないのだ。

今はそれ以外に方法はなかった。とにかく陽が沈む前までにどれだけ行けるかだ。

同じような木々の風景が続くこの密林で迷ったらそれこそ取り返しがつかない。

まずはあの広場に出るしかない。

紀伊也は決心したように頷くと、ぐったりと苦しそうにあえぐ司を背負って歩き出した。

だが、数歩進んだ所で立ち止まると少し困ったように辺りを見渡してしまった。

そこは一帯が同じような葉ばかりで、自分は一体何処へ行けばいいのか分からなくなってしまったのだ。

気ばかりが焦り、調べる事を忘れていた。

すると、不意に先程まで姿の見えなかったジャガーが現れ、尾を振ってこちらへ来いと促している。

別に命令していた訳ではない。

昨夜の狩りにしろ、このジャガーは紀伊也の命令だけを聞くただの使令だけではなさそうだ。

紀伊也は少し目を細めるとついて行った。

 濃い緑の垂れ下がる群れを押し退けた。そして、額にかかる緑を押し退けながら進む。耳元では苦しい息遣いが聞こえていた。

それでも50Mは歩いただろうか、それとももっと歩いただろうか。しばらく歩いたところで道らしき道に抜け出た。

だが、相変わらず目の前は濃い緑と木の枝に覆われている。

司を背負いながら生い茂る植物をき分け、長雨でぬかるんだ地面に足を捕られないように慎重に歩いた。

時々、ずり落ちそうになる司の体を支え直した。さすがに晃一と違って軽い。

だが、こんなにも華奢きゃしゃな体にあれだけの重圧を背負わせていたのかと思うと何とも情けなくなってしまう。

今までに何度となく危険な指令は受けてはいたが、これだけ生死の境を彷徨さまよったのは初めてだ。能力者として自分に架せられた使命が司の右腕になる事であれば、その司の命を何としてでも守らなければならないというのが、自分の使命なのであろう。

そう思うと、紀伊也の司を支える腕に力が入った。

どれだけ歩いただろう。生温かい風と共にいやな匂いをいだ。

そして、高い木々の隙間から覗く空を見上げて溜息をついた。

ポツポツと、雨が降って来たのだ。

小粒の軽い雨も瞬く間にサーっという音に変わり、シャワーのように降り注ぐ。

緑の葉の匂いも雨に濡れて色と共に濃くなっていく。

頭に降り注ぐ雨も、たまには葉で雨避けになるが、自分の体は司によって濡れずに済んでいる事を考えると、歩く速度も増した。

「まだ着かないのか」

少し苛立つように前を行くジャガーに声を掛ける。が、以前ここを通った時に交わした会話を思い出すと、溜息をついた。

『どれ位歩いた?』

『一時間くらいしか経っていない』

そんな会話だったが、一時間は歩かなければならないのだ。

少なくともあと半分くらいはある。

ジャガーは聞こえたフリなのか聞かぬフリなのか、軽く尾を振っただけで立ち止まりもしなかった。




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