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サバイバル  作者: 清 涼
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第十八章(三)

第十八章(三)


 晃一達をアランに引き渡してから既に三日が経とうとしていた。

“狩り”が行われてから確実に三日以上は経っている。

急いで戻らなければ司の命が危ない。何度となくテレパシーを送っていたが、全く返答は得られなかった。それよりか、タランチュラの気配さえ掴む事が出来ずにいた。

生きているのか、死んでいるのか、それさえも分からない。

ただ、司の安否だけを気にしながら元来た道とは別の道を引き返していた。何故なら同じ道を通った場合、万が一彼等に察知されない為でもあった。

再び、道なき道を勘を頼りに進んでいた紀伊也だったが、さすがに疲労の色を隠せない。

額に流れる汗をぬぐいながら、顔をしかめると肩で息を整える。

そんな紀伊也を時々心配するように立ち止まっては振り返り、黒いジャガーが一頭前を歩いていた。

 濃い緑がうっそうと生い茂る密林で、迷いもせず特に不安に押し潰される事もなくいられるのは、自分の使令であるこのジャガーのお陰かもしれない。

そう思うと、乱れた呼吸を整えながら、先を行くこの従者に目を細めた。

 しばらく行った所で、ジャガーが立ち止まり、何かに警戒したように両耳をピンと張った。

どうやらヤニ族の縄張りに入ったようだ。

紀伊也も全身の神経を集中させる。

そのとたん、疲れ切っていた筈の表情は消え失せ、何も感じない色を見せると、その目付きはジャガー以上に鋭くなって行く。

その瞳には何の感情もない冷たい色があるだけだった。

それは、何もかもかしたようなガラスのような色でもあった。

だが、辺りに漂う血生臭い臭気を感じたとたん、その色も消え、再び顔をしかめてしまった。

が、次の瞬間、ハッとすると同時にサァーっと顔色が引いて行く。

自分でも背筋が寒くなるのが分かる程だ。

「ま、さか・・・」

既に儀式は行われてしまったとでも言うのだろうか。この臭気は以前に感じたものよりずっと新しい血の匂いだ。

「う、そだ・・・」

信じ難い自分の想像に首を振って司の脳波を確かめる。だが、遮断されているのか、それとも何かが拒否しているのか、まるで感じて取れない。

そんな紀伊也の不安をあおるように生温かい風が吹いた。

そして、真夏のような陽射しを覆うように暗雲が広がって行く。

「そういえば、しばらく降っていなかったな」

空を見上げて呟くと、辺りを見渡し、雨避けが出来そうな場所を探す。

ポツポツと大粒の雨が落ち始めると、あっという間にザザーーっっと滝のような雨に変わる。

洞窟のような入口に駆け込んだ時には、叩き付ける雨に全身びしょ濡れになっていた。

ブルルっと、ジャガーが体を震わせ雫を振るった。

紀伊也は思わず苦笑すると、岩壁に寄りかかって腰を下ろして、疲れたように息を吐いて目を閉じた。

ジャガーも紀伊也の脇に腰を下ろすと、丸くなって同じように目を閉じた。


 その内、外は豪雨となり、時々不気味な雷鳴を轟かせていた。

辺りは増々暗くなる。数メートル先の視界さえ閉ざしていた。

バシャバシャという足音さえ、激しい豪雨の音で掻き消され、体を休めている紀伊也にはただ密林で響く雨音にしか聞こえていなかった。

それも深い眠りに陥ちていると、心地よく聞こえるものだ。いつしか紀伊也はまるで気を失ってしまったように眠っていた。


 どれ程眠ってしまったのだろうか、ふと目が覚めると、辺りはすっかり暗くなっていた。

「もう夜か」

ふぅと溜息をついた。

外からの雨音も止みそうもない。どうやら長雨になりそうだ。

サーという雨音は静かなものだったが、止む気配を感じさせなかった。

「今夜はこのままここで休もう」

そう言ってジャガーの頭に右手を乗せた。

ごろごろと喉を鳴らすジャガーに目を細めると、降りしきるジャングルの方を見つめた。



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