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サバイバル  作者: 清 涼
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第十七章(四)

第十七章(四)


 とにかく機会を伺った。

司は何とか全身の神経を集中させるが、今は周りの気配を感じる事だけしか出来ない。

それに、飲まされた毒のお陰で異常な喉の渇きにも絶えられず、時々運ばれて来る同じ毒水を飲み続けていた。

体がむしばまれているのは分かる。麻薬中毒症を起こしているのも分かってはいたが、それを止める事は出来なかった。だが唯一、自分の意識だけは失わぬよう拳を握り締めて耐えた。そして、いつか必ず逃げるチャンスはあると信じて待つしかなかった。

じりじりと熱い空気が建物の中に伝わって来る。

首に巻きついた鉄の鎖もその熱を帯び、更に重さを感じる。

「そういや降ってないな」

ふと思い出したように天井を見上げた。

この前降ったのはいつだっただろう。もうかなり前の事のように思えた。それに、ほとんど気を失ってしまっていたせいもある。

あそこで捕まってからどれ位の日数が経ったのかも分からない。それに、晃一達が脱出してから何日経ったのだろう。時間の感覚すら分からず、一人の孤独感を覚えると、突然切なくなってしまった。

こんな思いは生まれて初めてだ。

常に他人に頼る事は許されず、一人で生きて来たつもりだった。

だからいつも一人でいた事にはごく当たり前で、何もそれが孤独などと思った事はない。

なのに何故だろう。

突然に込み上げる切ない想いが胸を痛くする。

思わず泣きそうになって、それをぐっとこらえた。

「何やってんだ、こんな時にっ」

吐き捨てると、抱えていた膝を離し、片足を伸ばすと寝台の太い柱に頭をつけて、ふぅと大きな息を吐いた。

ジャランと音がして太い鉄の鎖が首からその柱にぶつかった。

思わずチッと舌打ちした。

 オレは飼い犬じゃねぇんだぜ

忌々《いまいま》しそうにその鎖をぐいっと引っ張った。

 

 ん?


ジャランと再び音がしたかと思うと、するっとその鎖が動く。

「あれ?」

よくよく見れば、その鎖には鍵がついている訳でもなく、ただ単に柱に巻きつけてあるだけだったのだ。

「ナンだよ」

急に気が抜けたように息を吐いたが、とたんに目が光ったように笑みがこぼれた。

だが次の瞬間にはその笑みも消え、また気だるげに頭を柱にもたれかけた。

垂れ幕が上がり、族長が入って来たのだ。

手には器を持っている。

 またかよ・・・

司は半分うんざりしたが、当に諦めている。『何も飲まないよりはマシだ』というシンラの言葉を思い出すと、ふぅと溜息をついた。

「さぁ これを飲め。極上のスープだ。これで更に貴様の血が美味くなるというものだ」

すっと目の前に差し出され、何を今更とそれを見たが、とたんに司の目の色が変わる。

ヒィっと息を呑むと、急に体が縮みあがってしまった。

そのスープは薄っすらと赤い色をしており、中には人間の目玉が二つ浮いていた。

「どうだ、美味そうだろう? あの女の目の玉だ。最高の味だぞ」

自慢気に言う族長を見る気にもならない。というよりは体の神経がこわばってしまい、動こうにも動けないでいた。

小刻みに自分の全身が震えていくのが分かる。

ガッと首根っこを掴まれ、器を口元に持って行かれた時、咄嗟とっさに首を思い切り振った。


「うわあぁぁっっーー やめろーーっっ!!」


半分泣き叫んでいた。

だがその衝撃で族長の手に力が入り、器がひっくり返ると中の物が全て司に降りかかった。

次の瞬間には殴り飛ばされたが、ガタガタ震えた司の体は何の抵抗も出来ずに、更に腹を蹴り飛ばされてそのまま気を失ってしまった。




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