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サバイバル  作者: 清 涼
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第十七章(三)

第十七章(三)


「少し休むか」

一つ崖を下りた所で、ふぅと一息ついた紀伊也は自分を見上げている黒いジャガーに声を掛けると腰を下ろし、岩に寄りかかって空を見上げた。

もうすぐ夜明けなのか、星の輝きがぼぉっと白みを帯びている。

『司のやつ、本当に大丈夫なんだろうなっ!?』

何度も晃一に問われたこの言葉を本当は自分が一番言いたかった。

途中何度引き返そうかと思った事か。

しかし、自分には絶対的な“指令”が下りていた。しかしこれが司の“願い”である事も重々承知していた。それ故、必ず全員を無事にアランに引き渡す事が自分にとってのある条件でもあった。あとはアランがハヤシと合流してさえくれたら間違いはない。

「うまくやってくれるだろう」

そう呟くと軽く目を閉じた。



 ******



 目を覚ました時、このまま死んでしまえば良かったと思う程の息苦しさに襲われた。


 もうヤダ・・・


そう叫びたくなったが、体全身がこの上なく重たい上に気だるい。

フラフラする頭で視線だけを動かした時、司はまた悲鳴を上げそうになってしまった。

すぐ隣で族長の男が大いびきをかいて眠っていたのだ。

驚いてガバっと体を起こしたが、首に太い鉄の鎖が巻き付いていた為に、ガラガラと大きな音がして族長の目を覚まさせてしまった。

ギョロっと睨まれた瞬間、体が縮み上がってしまったが、ぐいっと鎖を引っ張られてそのままバタンと倒れてしまった。

「 っくぅ・・・」

背中と頭を打ち付けて顔をしかめてしまった。だが次の瞬間、司は完全に逃げる事が出来なくなってしまったのだと気付いて、全てを諦めてしまったように天井を見つめた。


 もう・・・


突然、それ以上何も考えられなくなって思わず涙が溢れた。

自分でも訳の分からない涙だった。

「何故泣く?」

族長がゆっくり体を起こしながら司の顔を覗き込んだ。司は何のためらいもなく族長に視線を送ったが、不思議な事に今は何の恐怖も感じる事はなかった。

それが何故なのか疑問にすら思う事もなかった。

「今までの女どもは必ず泣き叫んでいた。だがお前といい、あの女といい、泣き言一つ言わなかった。これが極上の味というものなのか。今までの中で最高にいい味だった。特にお前のこの血は格別だ。全てを食ってしまうのは惜しい。だからまずはじっくりとこの血を味あわせてもらおうぞ。お前には礼をいわねばならんな」

そう言うとにんまり笑って体を起こしてあぐらをかいた。

「ふわぁ、久しぶりのご馳走に満足だ。しばらくはいい」

大きな伸びをしながら満足気に言うと、側にあった台から銀で出来た水差しを取って器に注いだ。

それをぐいっと飲み干すともう一度注ぎ、片手に持った鎖をぐいっと引っ張った。

自分で起き上がるまでもなく、引きずられるように起き上がった司は、首に食い込む鎖に手を当てながら恨めしそうな目を族長に投げ付けた。

その眼差しが気に食わないのか、ふんっと鼻を鳴らしたが、勝ち誇ったように顎をくいっと上げ、司の口に器を突き付けた。

ぐぐっと無理矢理飲み込んですぐさま激しくむせてしまった。


 ゲホっ ゲホっ ・・・ 朝からテキーラかよ・・・


ふと意識を取り戻したように我に返った司は呆れるまでもなく、フラっと体の中で一気に何かが落ちて行くのを感じた。

 ヤベ・・・ 酔った・・・

腹の奥がグルグル回りそうだ。思わずよろけてしまった。

その瞬間ガっと肩を抱かれるように抱え込まれてしまったが、抵抗する気力は全くない。

「そう言えば」

不意に思い出したように族長は言うと、鎖を放し、再びテキーラを器に注ぐとそれを飲んだ。

「あの女は伝説のアマゾネスだったのかな?」

と言って司の顔を覗き込んだ。

「え?」

司は思わず族長を見つめた。

「はははっ、そんな馬鹿な事があるものかっ! 伝説なんぞ作り話に過ぎぬわっ。 しかし、あれはなかなかの女だったな」

声高こわだかに笑い飛ばすと、見比べるように司を見た。

 うるせぇ、余計なお世話だっ

思わずムッとした司はぷいっと横を向いた。だが、次の族長の言葉に再び興味深気に、しかも食い入るように族長を見つめてしまった。


あおき石、朝陽浴びし時、聖なる泉湧きずる。一方は聖なる地へ、一方はしき道へ時が分かつ。いずこへずるかはその光の定めるところにある。運命は光のままに。愚者ぐしゃよ迷う事なかれ、光の導くままにその手を伸ばせ、さすればおのずと見えるであろう。森羅万象碧き石の上に成る。生ある物、碧き石に従いておごる事なかれ、すべては光の導くままに」


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