第三部 光ノ導クママニ 第十七章(一)
第三部『光ノ導クママニ』
第十七章(一)
メラメラと妖炎が辺りを包み、不気味な程低い太鼓の音が鳴り響いた。
目を見開くと、目の前でシンラの体に鋭い槍が下から突き刺さり、血にまみれている。
もし、シンラがいなければこの光景は間違いなく自分に架せられていただろう。
余りの恐怖に息をする事さえ出来ずに喘いだ。
はっ はっ ・・・
吐く息が短く吸い込む事が出来ない。
まるで自分の体が切り刻まれたように全身が痛む。
目を閉じかけてハッと開けると、そのまま息が止まってしまいそうになってしまった。
「ヒっ」
という短い悲鳴を上げると、そのまま両目を開けたまま視線が合わずに目の前が真っ白になっていく。
が、次の瞬間、ドンっという衝撃を受けると、ゲホっと詰まっていた息を吐き出し、そのままゲホゲホとむせ返ってしまった。
全神経が緊張し、体がこわばる。
族長にその血走った目で自分の右手を取られ、乾いた血を舐めるように口の中に入れられて、司はそのまま気を失ってしまった。
がっくりと力が抜けた司を、族長の大男は抱えてにんまりとした笑みを浮かべると、自分の寝所へと運んだ。
夜明け前の事だった。
******
ガタガタと揺れる振動と、それに煽られて漏れて来る暖かな光に晃一が目を覚ました。
体を起こそうとして、ガンっと車の壁に頭をぶつけた。
アテテ・・・
「えっ!?」
しかし、自分が今、車の中に居る事の方が驚きだ。
状況が掴めず、はぁはぁ言いながら何とか体制を保ち、見渡した。
狭い荷台に5人の男達が眠っている。
皆、見知った顔だった。
「助かったのかっ!? ・・・、紀伊也っ!?」
思わず歓喜の声を上げると、紀伊也を呼んだ。が、しかし、返事が返って来ない。それどころか、その姿さえ見えなかった。
「紀伊也っ!?」
もう一度呼んだ時、木村が目を開けた。
寄りかかっていた体を起こし直すと、顔を上げ、
「多分、前に居ると思います」
と言って、笑みを見せた。
「そっか、・・・ ふぅ・・・、俺達、助かったんだな・・・」
「そう、ですね」
声を詰まらせた晃一に、木村も改めて胸が熱くなる。
まだ熱にうなされているのかと晃一は思ったが、激しく伝わる振動に思わずむせび泣いてしまった。
そして思い出すと両手で頭を抱えた。
「司ぁ・・・、俺達、助かっちまったよ・・・、お前は今、何処に居んだよ・・・」
司の名前を口に出すと、居ても立っても居られない程に切なくなってしまう。
どうしようもなく震える全身に、晃一は歯がゆさを覚えると、自分の体を強く抱きしめた。




