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サバイバル  作者: 清 涼
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第十六章(一の2)

 深夜、つい先程まで月明かりに照らされていた雑木林も、不意を付くように現れた雲に暗闇に閉ざされてしまった。

疲れ果ててうとうとするスタッフを、丸くなっていた野犬が少し離れた所で見守っていた。だが、ブロロ・・・という四輪駆動車の音に耳をピクリと動かすと、むくっと起き上がった。

車のライトが消え、エンジンの音も消えると、ドアがそっと開いた。

 ホーっ ホーっ

ふくろうの鳴く声が車の傍らでする。

 ホーっ ホーっ

同じ声が少し離れた大木から聴こえると、車のドアが閉じられた。

「赤い牙のアランです」

スペイン語が低く響いた。

「何とか間に合った」

紀伊也は疲れたようにゆっくり近づくと一つ息を吐いた。

「手はずは整っています。すぐ車に乗って下さい」

「まずは誰に引き渡す?」

アランが急かすように言って、車のドアに手を掛けたが、それを紀伊也が冷たく制した。

「この山を下りた所で、ハヤシと合流します。それから・・」

「そのまま首都ボゴタへ行け。大使館に直行するんだ。それ以外のルートは許さない」

「えっ!?」

「聞こえなかったか? それ以外のルートは許さない」

「わ、わかりました」

脅しとも取れる紀伊也の口調にアランはそう返事をするしかなかった。

逆らう事は出来ない。

例え、どれだけ遠くにいようがこの命令を無視したり、少しでも変えようものなら必ず消されてしまう。それがタランチュラとハイエナの能力なのだ。しかも直接の指示であれば尚更だ。

「まずは、彼等を運ぶのを手伝ってくれ」

そう言うと、紀伊也はアランを促した。

アランは先程から自分を監視されるような視線にビクビクしながら紀伊也について行った。

懐中電灯で照らして確認しようかと思ったが、首をそちらに向けたとたん、グルル・・・という低い唸り声を聞いて、やはりと観念する事にした。

既にハイエナの使令に監視されていたのだ。紀伊也の指示に100%従えばいい。そうすれば必然的に自分自身をも守られるという事だ。

アランは黙って紀伊也の後について歩いた。

道路から30M程奥に入った所で、数人の人間の息遣いが聞こえた。

「立てるか? 迎えが来た。 車まであと少しだ、頑張ってくれ」

紀伊也のその言葉が天の声に聞こえた。そうでなくても懐中電灯の明かりに思わず感極まってしまったくらいなのだ。

「アラン、そいつを運んでくれ」

横たわった恩田を指し、自分は晃一を再び背負った。

木村はアランから手渡された懐中電灯で足元を照らした。

何日ぶりの光だろう。背の高い木々を照らしながら進むと車を見つけた。

それを見た時、思わず全身が震えた。木村だけでない、西村も岩井も佐々木も喉の奥を震わせた。思わず込み上げて来るものは皆同じだった。

ほろを付けたジープの荷台に助け合って乗ると、毛布を敷いて恩田を寝かせる。

「恩田さん、助かりましたよ」

佐々木が毛布を掛けながら言った。

最後に晃一が乗せられると、荷台の囲いが閉じられた。

外では紀伊也がアランと何やらスペイン語で話している。

しばらくしてほろを少し開け、紀伊也が顔を出した。

「ここから山を下る。かなり揺れるから気を付けてくれ。途中でもう少し良い車に乗れるだろう。それから出来るだけ早く東京へ戻って元気な顔を見せてやるんだ。それと、奥に袋があるだろ、そこに水と食糧が入っているから好きなだけ食っていいぞ。あとはとにかく休んでいろ」

それだけ言うと、ほろを閉じた。

そして少しすると、車のドアが閉じられる音が2回した。

紀伊也は助手席に乗ったのだろう。そう信じて疑わず、車が動き出すと同時に、全員が心の底から安堵の息を吐いて、毛布を広げると横になって目を閉じた。




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