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サバイバル  作者: 清 涼
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第十六章(一)

第十六章(一)


 ガクン と力が抜けた。

紀伊也は晃一の腕を肩から下ろすと、背中に背負った。

だらりと下げた両手にふぅと息を吐くと再び歩き出した。

「あともう少しだ、頑張れ」

誰に言う訳でもなく呟くように言うと、足を引きずった。

後ろに続くスタッフも互いに支えあっている。既に一人で歩き続ける事は難しかった。

「この崖を上がればすぐなんだが、無理だな。遠回りにはなるが、まだ時間はある。頑張ってくれ」

見上げれば5M程だったが、この状態ではとても登れそうもない。

皆肩を落とし、ふぅ と溜息にも似た息を吐いたが、直後、何かに反応してハッと顔を上げると互いに顔を見合わせた。

確かに聴こえたのだ。

それは、いつもは常日頃日常生活の一部で、時には騒音とさえ言われ、又耳障りだったが音が、今はとても懐かしく、更には恋しくさえ聴こえた。

「車・・・?」

岩井が呟いた。

そして、一斉に全員が求めるように紀伊也に視線を送った。

「ああ」

紀伊也は自分でも不思議なくらい抑える事の出来ない笑みを浮かべて頷いた。

その瞬間、全員に込み上げるものが溢れると、構わず誰彼となく嗚咽を上げた。

渇き切った筈の体から涙が流れて来る。

「さぁっ もう少しだから頑張れっ」

再び紀伊也が声を掛けた。

「晃一、もう少しだから」

そう言うと、気を失ってしまった晃一の体を支え直して歩き出した。

日は完全に暮れてしまったが、足元の野犬を頼りに歩いた。

時々、木の根につまづいたり、枝に足を取られたりしたが、誰も何も言わずに立ち上がって歩き続けた。

 

 ようやく紀伊也は立ち止まると、晃一を下ろし、大木に寄りかからせて座らせた。

はぁはぁと弱々しい息を吐きながら目を閉じたままの晃一の頬を軽く叩く。

「晃一、着いたぞ。あともう少しの辛抱だ、頑張ってくれ」

ぐったりとした両肩に手を置いて耳元で言うと、立ち上がった。そして、真っ暗な闇を見渡し、辺りに神経を集中させる。

遠くでカサっと音がした。

だが、他の者は既に座り込んで息を切らせている為に、その音は聴こえない。

紀伊也の目がとてつもなく鋭くなるが、誰にもその目は見えなかった。

「ここで待っていてくれ」

そう言うと、先程かすかな音のした方へとためらわずに歩いて行った。



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