奈都の憂鬱
リクエストへのお答えが遅くなってしまってすみません!
新婚&ラブラブに、とのことなので、なるべく甘くできるように頑張ってみました。
ちょっと方向性がおかしいですが、新婚でさらにラブラブとなると、未熟な私にはこういう展開しか想い浮かばなかった……!
もし思い描いてらっしゃったものと違ってたら済みません。
たぶん3話くらいで終わります。喜んでいただけるといいなぁ(>_<)
「あんまり眠れなかったや……」
深く息を吐いて両手で竹ぼうきをぎゅっと握り、下を向く。
真っ白な砂の上には、薄桃色の桜の花びらがまばらに落ちている。
「藤原奈都……か」
ぽつりと呟きながら、あの日碧と共に手を合わせた神社の本殿を見やると、碧とお義父さんが朝のおつとめをしていた。
まばゆい朝の光が差し込む本殿は神聖な雰囲気にあふれていて、真っ白な着物と伝統色の袴を着ている碧を美しく照らしている。またひとつ、彼が遠い存在に見えていく。
ああ、おかしいな。
本当は格段に近くなったはずなんだけど。
軽くため息をついて、どうしようもない自分に呆れて笑った。
昨日この神社で神前結婚式を終えた私は『菅原 奈都』改め『藤原 奈都』と名乗ることになった。
そして、昨晩から碧、お義父さん、私の三人で神社の敷地内にある家に住んでいるのだ。
本来なら神職の嫁として旦那さんをサポートするべきなんだと思う。
けれど、私の夢は『歴史を次の時代に繋いでいくこと』であり、それは絶対に諦めたくなくて。
結局、碧や碧の家族のご厚意もあり、来月からこの大阪の地でまた、社会科教師として働くことになっていた。
「よし、これでいいよね」
ぐるりとあたりを見渡してうなずいた。
神事には大して関われないただの教師だけど、休みの日や朝晩くらいはこうやって境内のお掃除は続けていこう、なんて思う。
だって、この神社は私にとって、特別な神社だから。
そうだ。きっと、そろそろ二人が朝のおつとめから帰ってくる。
朝食前に温かいお茶でもいれてたら、碧とお義父さん喜んでくれるかな。
そういうのってなんとなく、妻っぽいし。
そう思い立った私は掃除用具入れに竹ぼうきをしまい、足早に台所へと向かった。
――・――・――・――・――・――・――
緑茶の良い匂いをかぎながら急須にお湯を入れて、テーブルの前でぼんやりと立ち尽くす。
「あぁ眠……」
突如、視界がぼんやりとかすむ。
暖かい部屋にいると強い眠気が襲ってきて、間抜けなあくびがリビングに響いた。
「小学生並みの時間に寝入ってたのに眠いのか?」
その声に顔だけで振り向くと、小馬鹿にしたようにくすくすと笑う碧が立っていた。
「そうだよ、悪い?」
睨みつけて言い返すと、碧はフンと鼻で笑ってくる。
「九時台に寝て六時起きとか、ばあさんみたいだな」
あの頃から全く変わらない、青緑色がわずかに混じった澄んだ瞳と亜麻色の髪。
性格だってあの頃のまま。
憎まれ口ばっかり叩いていて、時折本当に私のことを好いてくれているのか疑問に思ってしまうくらいだ。
今回だって、ばあさんだとか小学生並みに早く眠ったとか言ってるし。
そもそも、そうせざるを得なかったのは、一体誰のせいだと思っているんだ。
「はいはい、どうせ私はお子様ですよ。いつもは九時に寝てるのに、昨日は十時近くに寝たから眠くて眠くてしょうがないんですぅー」
碧の言葉にムッとしたけれど、情けない真実なんか言えるわけがない。
私は、口をとがらせながら碧に背を向け、嘘をついてごまかした。
「あっそ。まぁ、結婚式もあったし慣れない家だしで疲れてたんだろうから、仕方ないか。あのさ、奈都……」
「何?」
振り返って顔を上げた瞬間、唇に温かいものが触れてくる。
至近距離にいた碧が離れてようやくわかった。
いまここに触れてきたのは、碧の唇だ。
挑発的な碧の瞳と視線が交わった同時に、どくんと強く心臓が跳ねていく。
それと同時に顔が一気に熱くなっていったのがわかった。
「ちょ、ちょちょちょっと! こんなとこお義父さんに見られたらどうすんの! それに朝のおつとめ終わったばっかりなんでしょ!?」
勢いよくあたりを見渡し、誰もいないことを確認してほっと息をついた。
「このへんに親父の気配ないし大丈夫。それに、おつとめの後じゃ、しちゃいけないもんなの?」
そう言った碧は、妖しく微笑んできて。
色気のあるその表情にまたどきりとして、まともに顔が見られない。
「ただの社会科教師がそんなの知るわけないじゃん!」
どうしようもなくなって背を向けて逃げようとすると、そのまま後ろからきゅっと抱き締められた。
「奈都……」
耳元で甘く優しく名前を呼ばれ、緊張と恥ずかしさとで身体が固まっていく。
その時、高らかにチャイムの音が鳴り響いた。
「お、こんな朝早くから客か?」
遠くの方からかすかにお義父さんの声が聞こえてくる。
「え、ええと。わわ私、出てきますね!」
慌てて碧の腕からすり抜けて玄関の方へとこけそうになりながら走った。
「逃げたな」
そう言って小さく笑う声が後ろから聞こえてきた。
やっぱり、ふざけてああいうことしてきたんだ。
碧ってば、私のことからかって遊ぶ癖、治してくれないかな、もう。
毎日がこんなのだとしたら、心臓が持たないよ。




