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夏鶯の空~千年を越える夢~  作者: 星影さき
第十二章 初恋
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嬉しい予感と小さな違和感

「なぁ奈都……明日も霊光の松計画を続行しようと思う」

 呟くように碧は話していく。


「大成功だったし良いと思う! 明日はもっと村人が増えてるかもよ!」

 満面の笑みを見せると、碧は何故だか困ったように笑っていった。


「もしかして、あんまり乗り気じゃない?」

 そう尋ねると、碧は静かに首を横に振っていく。


「明日、か……」

 どうしたのだろう。

 乗り気ではないかの問いに”ノー”の仕草を見せたのに、表情も言葉も煮え切らない。


「何かあったの?」


「いや。すまないが明日はわんぴいすを着て、お前の持つ全ての書も持って来てもらいたい」


「ワンピースはわかるけど、なんで本がいるの?」

 あれらの本は元々、現代にいた頃勉強のため持って行ったもので、全部合わせたら結構な重さになってしまう。

 自転車で運ぶのも結構大変だったし、正直なところあんな大量の本を持ち歩きたくなんかない。


「農民達に未来の書物を見せれば、巫女の信憑性しんぴょうせいが更に増すだろ?」


「そっか、なるほど!」

 言われてみれば確かにそうかもしれない。

 未来の学問や歴史が書かれた本は、この時代の人達にとって不思議な魔法の書に見えることだろう。


「重いだろうし、運ぶのは俺も手伝う。だから、持ってきてはくれないだろうか?」


 そうか。さっき煮え切らない態度だったのはきっと、重い荷物を運ぶことが嫌だったんだ。

「いいよ! 一緒に計画を成功させよう!」



 ……どうして私は気づけなかったのだろう。

 碧の言葉や表情の違和感に。

 もしもこの時、隠された想いに気付けていたら、未来は違ったのかな。



――・――・――・――



 その翌日は不思議なほどに、すっきりと目が覚めていった。

 部屋の端の方を見ると、碧はまだ小さく丸まりながら寝息をたてていて。


 この私が碧よりも早起きするなんて本当に珍しい。


 また眠れる気もしなかった私は、音を立てないようにゆっくりと外へ向かっていった。


「すごい……」

 戸を開けるとそこには、溜め息をもらすほど美しい景色があった。

 緋色の山際から空に視線を移していくと、徐々に赤紫、青紫、群青色へと色が変わっていく。

 群青色の空にはまだ、真っ白な星がキラキラと輝いている。


 あぁ。朝ってこうやって、やって来るんだ。


 きっと平安時代に来なければ、朝がどうやって来るのかなんてわからなかっただろう。

 知ろうともしなかっただろう。


 この時代に来られて良かった。今まで気付けなかった沢山のことに気付けて本当に良かった。

 ねぇ。私、この時代のこと大好きだよ。碧のいる平安時代が……


 昇っていく太陽を見つめながらそんなことを想う。


 いつか碧が話してくれた夏鶯なつうぐいす

 その流麗な声が、静かな森の方から誇らしげに響き渡っていった。



「うん、そろそろご飯作ろうかな!」


 良い朝を迎えられたし、今日は何だか素敵なことがありそうな予感!

 思わず心も弾んでいく。


 嬉しいことに予感は当たり、ラッキーなことは次々に繋がっていった。

 一つ目の嬉しい出来事は、私の作った朝食を碧が今までにないくらいに褒めてくれたこと。

 二つ目は郡衙ぐんがでの仕事をスムーズにこなせたこと。

 三つ目は伊助さんが私を正式に雇うと約束してくれたこと。


 もう私は、泣き喚いてばかりで何も出来ないお子様なんかじゃない。

 出来る事も少しずつ増えてきているし、自分だってやれば出来るという確証も何となく得てきたように思う。


 そして何より、この時代にも自分の居場所が出来始めていることが嬉しくて嬉しくて。

 こうやって一日中碧のそばにいられることも、幸せで仕方がなかった。


 恐らく幸せ過ぎたのだろう。

 初恋を自覚してからというもの、私は自分自身の制御ができなくなってしまっていた。

 碧に近づけば自分でも意味不明な行動をとり、離れればその姿を探して横顔ばかり見つめてしまっていて。


 『恋は人を惑わせる』とはよく言ったものだ。

 今日の私は不審者以外の何者でもなかったように思う。


 ただ幸いなことに、碧は何やら考え事に夢中だったせいか、私の異変に気付かずにいてくれたようだ。


 妙に鋭いところのある碧。

 私の気持ちをさとられて、この関係が崩れてしまうことだけは絶対に避けたい。

 明日からは気をつけなきゃな。



 そして、今日もいつもと同じように日暮れの時を迎えていった。

 大きな橙色だいだいいろの太陽が山の向こうへと降りていくにつれ、辺りも同じ温かな橙色で包まれていく。

 碧の髪や、私が着ているワンピースも久しぶりに背負った斜め掛けのカバンもまた、同じ色で染まっている。


 今日も昨日と同じく霊光の松計画を行うために、七本松の前へと向かっていった。

 碧が大将軍社の前で立ち止まったのを見て、自然と私も足を止める。


「奈都。計画の前に、少しだけ話したい話があるんだ」

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