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夏鶯の空~千年を越える夢~  作者: 星影さき
第十二章 初恋
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す、すすすすす

 みみずくの鳴き声がどこからともなく聞こえ始め、黄金の月は漆黒の夜空に昇っていく。


 おじさんが家へと向かうのを見送り、日が沈んでからもずっと、私たちはこの大将軍社にいた。

 『霊光の松』計画のメインにとりかかるために。


 霊光の松を発生させるのは想像以上に仕込みが必要なようで、碧は先ほどからずっと謎の模様が描かれた小さなふだを木に貼り付けていた。

 何だか、漫画でよくある『結界を張る』っていうのに近い気がする。


 余計なことを考えることがないように動く仕事がしたかったし碧の手伝いをしようとしたのだけれど、見張りを頼まれてしまったため、私は碧から少し遠く離れたところで誰も来そうにない真っ暗な街道をぼんやりと見つめていた。



 ああ、静かで暗いこの環境。

 考えごとをするには最適で、今の私にとっては最悪な環境だ。


 黙々と札を張っている碧に聞こえないように小さくため息をついた。 



――これじゃまるで……


 何もしないでいると、先ほどと同じセリフが脳裏のうりをかすめてしまい、私はぶんぶんと振り払うように頭を強く振った。


 考えちゃだめだって!

 さっきもそう思ったばっかじゃん!



 さっき碧の優しい笑顔を見て、私はとある感情が胸のあたりから湧きあがってくるのを感じて。

 だけど、私はその感情に名前をつけてしまう前に胸の奥の方へ、ぐっと押しこめていったのだ。


 この感情は今の私にはいらないものなんだから。

 自覚してしまったら、きっともうこれまでみたいに碧と楽しく過ごすことは出来ない。

 感情が出てこないように、しっかりふたをしなければ。



 そうだ、嫌なところを考えてみよう。


 これは我ながら名案だと思う。

 冷静に考えてみれば、私は碧から結構ひどい扱いをされているし、それに気付けば頭だって冷えるはずだ。


 よし、嫌なところを思い出せ。


 碧は意地悪で優しくなくて、料理が下手で、上から目線で、頭が固くて、ドSで……よし、結構出るぞ。


 憎まれ口ばっかり叩いて、子どもっぽいところもある。

 子どもっぽいと言えば、笑った顔は子どもみたいに無邪気でかわいいんだよね。

 何だかんだ言って優しいところもあるし、私のことを守ってくれて、いつも勇気をくれる。


 そんな碧に助けられて、いろんなことを教えてもらって、私は自分のことを前よりも認めることが出来たような気がするんだよね。

 きっと私は、そんな碧のことを、す……すすすすす、じゃない!


 ああもう! 違うことを考えろ、菅原奈都。


 どうしても考えをそっちに持って行こうとする自分の頭の強引さに呆れながら、しゃがみ込んでひざを抱えていく。



 自覚しちゃだめだ。

 このままずっと気付かないままでいなきゃ。


 だって……この気持ちに気づいてしまったら、私はどこにも逃げられなくなる。

 そして最後には、選ばなきゃいけなくなる日が来てしまうのだから。


 ……ううん、そんな簡単なことじゃない。



 平安か平成か。

 どちらかの世界で生きることを選ぶっていうのは、どちらかの未来を捨てるってことだ。

 大切な誰かとの関係を、未来を、その全部を捨てなきゃいけなくなってしまうってこと。 



 そんな残酷な決断、私に出来るわけがない。

 こんなの後悔しないはずがない。 


 以前源菖さんは碧に『悩んだ時はそうしたいと望む方を選べば良い』と言っていたけれど『そうしたくない』と思うばかりで『こうしたい』と思える道がない私は一体どうすればいいのかな。



 弱虫で意気地なしの私が選びとった行動は……気付かないふりを続け、考えることをやめるいうこと。


 この逃げの選択が、未来の私を苦しめるなんて想像できなかったんだ。 

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