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夏鶯の空~千年を越える夢~  作者: 星影さき
第十一章 自分の使命
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懐かしの郡衙

 美しい光景を思い返しながら碧の家へと帰りつくと、疲れていたのかその日はすぐに眠りについた。


 翌日の昼、私たちは現代で言う市役所のような場所、郡衙(ぐんが)へと向かっていった。

 理由は一つ。

 私たちを京へと(つか)わせた、郡司である藤原伊助さんに報告をしなければならないからだ。


 綺麗な門をくぐりぬけるといつかのように、派手な足音と碧を呼ぶ声が聞こえてくる。


――ドタドタドタドタ

「碧ーーーっ! やっと帰ってきたんだね!!」


「はぁ、またか」

 伊助さんの登場シーンどころか、碧のため息とセリフもいつかと同じで、思わず吹き出しそうになってしまう。


「碧、奈都ちゃん、お帰りーーっ!」

 碧と私に飛びつこうとする伊助さんを制止した碧は深々と礼を一つ。


「伊助殿。碧と奈都、ただいま戻りました」

 すると伊助さんは満面の笑みを浮かべ、私たちの肩を優しく叩いていった。


「長旅本当にご苦労さま。向こうでゆっくり話を聞かせてもらおうかな」


――・――・――・――


 通されたのは執務室らしき部屋で、そこには伊助さんと碧と私の三人しかいない。

 くるりと軽快な足取りで振り返った伊助さんは、相変わらず緊張感のない笑みを浮かべている。


「じゃあまず、碧の報告の方から聞こうかな」


 碧はこくりと頷いて、いつものように冷静に話していく。

 煮え切らないその語尾だけを除いては。


「書類については坂上様に問題なく渡せている。ただ一つ困ったことになって」


「困ったこと?」

 珍しく歯切れが悪い様子の碧に、すぐさま伊助さんが突っ込んでいく。


「藤原平康殿に目をつけられた」

 ため息をつきながら、碧はそう語る。

 伊助さんがどう答えるのか心配になった私は顔を上げていった。

 伊助さんは、こんなふうにへにゃへにゃした感じだけど名門藤原家の出で、れっきとした貴族なんだ。

 身内からの印象が悪くなるのは伊助さんにとってもマイナスのはず……


「ふーん。それで」

 表情を変えず、伊助さんは淡々と答えていく。

 怒ってるのか、それとも何とも思っていないのか、表情からはさっぱり読めない。 


 伊助さんの問いに対して、碧は心底呆れた様子で予想外の答えを口にしていった。

「軽く喧嘩を売ってやった。あのかたは五月蠅くて、変に権力を持っている分たちが悪くて……これ以上関わるのが面倒になった」


「ちょっと、ねぇ碧その言い方!」

 伊助さんと平康さんは血縁関係なのに、目の前でそれ言うか!?

 慌ててとがめると、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「あはは、そりゃ最高だね! 僕もあいつのことは心底嫌ってるから、いい気味だよ。あいつ、こんな顔して驚いてたんじゃない?」

 そこにいたのは大声で笑う伊助さんで。

 指で吊りあげて変顔を作り、また笑っていく。


「い、伊助さん……?」

 伊助さんもどうやら平康さんのことを良くは思っていないようだけど、郡司が好きとか嫌いとかそんなんで物事を判断していいのかちょっと心配になる。


 碧も同じことを思っていたようで、苦笑いをしながらこう話していく。

「だが、お前の立場としてはまずいだろう? お前を孤立させるのは俺の本意じゃない。だから俺を解雇かいこして欲しいんだ」


「嘘!?」

「は? それ本気で言っているのかい?」


 予想だにしなかった言葉に、思わず私まで声をあげてしまった。 


「こんな嘘を言うほど俺は馬鹿でも暇でもない」

 目を丸くして驚く伊助さんと、真剣な顔をして頷いていく碧。


 呆れたように笑った伊助さんはなぜか私の方をちらりと見て、こう言った。

「んー、それについてはのちほど、かな。二人で話した方が良さそうだし」


「ああ、頼む」


 伊助さんの意味深な視線と言葉に首をかしげていくと、視線があった伊助さんはにこりと優しく笑っていった。


「じゃあ次は、奈都ちゃんの報告を聞くとしようか」

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