彼女は見惚れる
テレーズ、やっと気付く。
テレーズはふと気付いた。
「ボーモン様ってかっこいいですよね」
「なんだ藪から棒に。もう見慣れた顔だろう?」
気付くのが遅すぎである。が、たしかにボーモンはものすごく美丈夫だ。
「うーん。見慣れてはいますけど、やっぱりかっこいいです」
「そうか。君も美しいぞ」
さらりと流すボーモンだが、実はものすごく嬉しいと思っていた。
のだが。
「テレーズ」
「はい」
「何時間も私の顔を見ているが、飽きないのか?」
「飽きません!」
テレーズはボーモンの執務室までついてきて、仕事を黙々とこなすボーモンに見惚れていた。特に己の中のボーモンへの恋愛感情に気付いたとかではなく、純粋にボーモンの顔の造形の美しさに心惹かれてのことである。
ボーモンは仕事を真面目にこなしつつも、やはり落ち着かない。五歳年下の可愛い妻が、ただただ何時間も自分の顔を鑑賞し続けているので当然といえば当然である。
仕事が一息つくと、ボーモンは言った。
「テレーズ、おいで」
「はい、ボーモン様」
テレーズはボーモンの膝の上に対面で座る。ボーモンは、テレーズの頬に手を添えた。
「うん、やはり君は美しいな」
「ボーモン様も綺麗です」
しばらくお互いに見つめ合う。お互い見れば見るほど、綺麗な顔立ちだ。しかしボーモンの仕事はまだまだある。短い休憩は終わり、いちゃいちゃタイムは終了である。
「テレーズ、私は仕事の続きをするが君はどうする?」
「ボーモン様のお顔を鑑賞します!」
「そうか……」
ボーモンは色々と諦めて、テレーズの好きにさせた。
「……ボーモン様、かっこいいなぁ」
さらに数時間後、テレーズは未だにボーモンに見惚れていた。今までボーモンの顔に興味がなかったのが嘘のようである。
一方でボーモンは、いい加減見つめられるのにも慣れて凄まじい集中力で仕事を片付けていく。
そしてついに、ボーモンの今日片付けるべき仕事は終わった。
「終わった……」
「ボーモン様、おつかれ様です!」
「ありがとう、テレーズ」
テレーズは先程までぽーっとボーモンに見惚れていたのが嘘のように、ボーモンのためにいそいそと紅茶を淹れる。そのキビキビとした動きに、ボーモンは言った。
「もしかして、いつのまにかお茶を淹れる練習とかしてたか?」
「何故それを!?」
「動きを見ればわかる」
テレーズはしゅんとした。
「ボーモン様を驚かせたかったのにぃ」
「十分驚いた」
「本当ですか!?」
単純なテレーズにくつくつと笑うボーモン。
「驚いた驚いた。おお、美味しそうなお茶だな」
「どうぞ!」
「いただきます。……うん、美味しいな」
「よかったぁ……」
ホッとしているテレーズを、顔からお茶に興味が移ったなぁとボーモンは冷静に観察していた。
ボーモン、テレーズの興味が自分の顔から他に移ってちょっとホッとする。




