彼女は手の大きさを比べる
テレーズはほっそりとした綺麗な手。
テレーズは寝室で添い寝の最中に、脈絡もなく突然言い出した。
「ボーモン様の手って大きいですよね」
「まあ、男だからな。……というか、君の手が小さいんじゃないか?」
ボーモンがテレーズの手をとって、お互いの手と手の大きさを比べる。テレーズの手は細っそりとしていて、ボーモンのがっしりとした手と比べるとやはり小さい。
「うーん。やっぱり大きいです」
「そうか」
「お菓子の掴み取りとかすごく得意そうですね」
「うん?……ああ、平民達がたまに催すアレか。お菓子の他にも魚とか野菜とかもあるんだったな」
「それは掴み取りじゃなくて袋詰めですよぅ!掴み取りは一度だけ箱に手を入れて、取れたお菓子をゲットできるんです!お魚とか野菜とかの奴は袋に入るだけ入れて、入った分だけゲットできる奴ですね」
テレーズの前世の知識総動員である。お菓子の掴み取りは大好きだった前世の彼女。幼い彼女にはビッグイベントだったのを思い出して、懐かしく思うテレーズ。
「君は意外と平民の暮らしにも明るいんだな。尊敬する」
素直に賞賛するボーモンに、テレーズは大いに照れた。
「えへへ。そんなに褒められると照れちゃいます。お菓子の掴み取りは、子供達に大人気のイベントなんですよ。お魚や野菜の袋詰めは、主婦の強い味方ですね!」
「そうなのか。勉強になるな。……そうだ、今度孤児院の子供達を呼ぶ際にはそれこそお菓子の掴み取りをさせてやれば喜ぶんじゃないか?マシュマロや飴玉の個包装のものなら子供の手でもいくつか掴めるだろう」
「ボーモン様、ナイスアイデアです!」
次の子供達のためのイベントに新しい企画を考えてもらえて、テレーズはワクワクである。そんなテレーズの様子にボーモンもご満悦だ。
「役に立てたのなら良かった。君は孤児院の子供達をよく気にかけるが、子供が好きなのか?」
「え?うーん……」
テレーズとしては、前世の記憶に意識が引っ張られているため子供達に仲間意識を持っている。親はいたがネグレクトを受けており独りぼっちだった前世の彼女を、孤児である子供達に重ねていたのだ。だから、子供が好きとかいうのではない。ただ。
「孤児院のみんなには、幸せになって欲しいです!」
これだけは、確実に言えるのだ。
「ふ……そうか。それならいい。無理のない程度に、頑張れ」
「はい、ボーモン様!」
テレーズは転生出来て良かったと心の底から思う。前世ももちろんもっと長く生きていたかったが、今世は幸せばっかりだ。だから、その分孤児院のみんなを目一杯幸せにしてあげたい。ボーモンに救われたように、孤児院のみんなを幸せにしたい。
お小遣いの消費目当てで始めた慈善事業は、いつのまにかテレーズの中で大切なことになっていた。そんなテレーズの様子に、ボーモンはさらにテレーズを愛おしく思うようになる。
ボーモンはがっしりとした大人の男性の手。




