第111話 なんか思ってたのと違った
「結局寝不足だよ……」
翌朝、太陽が東の空からひょっこりと顔を出したすがすがしい朝の中、オレはベランダに置かれている椅子の一脚に腰かけていた。
ここは十一階。立てば霧に包まれた幻想的な街並みが見られるのだが残念ながらそんな気力はなくて。
「二時間、か」
眠れた時間が。
同じベッドで横になる恋人・ウェディンが気になって二時間しか眠れなかった。
それはウェディンも同じなようで彼女の寝息が聞こえたのは夜中の四時ごろ。現在六時だがまだベッドに入っている。
燦覇は早々に寝てしまい現在も爆睡中。
「まあ全く眠れないよりは良いか」
若いからだろうか? 二時間睡眠とは言え疲れはない。あくびは出るがいつも通りに動けそうだ。
「いやぁ、同伴者が恋人ってだけでキミはマシだよ」
「ん?」
お隣のベランダから聞いた声が。
この声は確か駅で……。
「おはよう」
顔が出てきた。結構ベランダから身を乗り出していて危険な顔の出し方だった。バランスを少しでも崩したらどうなるか分からない。
「あっとぉ、駅で声が重なった?」
「そ。あれウイナーね」
ショートカットに切られた髪は瞳と同じライムイエロー、白い肌。オレより頭一つ分背が高く、オレより少しだけ筋肉がある白人男性。
『シュティーフェル財団』の上位者だと言う青年だ。
左目にある『覇紋』は淡い紫系ラベンダーアイスの七稜星。
「おはよう。
隣だったんだ。
オレは天嬢 涙覇、十六歳、日本人」
椅子から腰を上げて、できる限り隣に寄る。
「ラズベル=ラズベリー。二十歳、オーストラリアとオランダのハーフ。
よろしくな」
「よろしく」
気軽に手を振ってこられたので、気軽に手を振り返す。
人懐っこい笑みだ。敵意も警戒心もまるでない。
彼のフレンドリーさに少しだけ驚いていると、
「ふあ」
大きなあくびがラズベルから。
「ウイナーも涙覇と同じで寝不足だよ。
ただ甘い夜があったとかじゃなくて男三人で盛り上がってただけなんだけどさ。
そっちは駅で見かけた彼女たちとだろう? 一人は恋人、一人は妹と見た」
おしい。燦覇は妹のような存在だが違う。
「残念だけど甘い夜はなかったよ」
人が見たら同じベッドで寝ていたと言うだけでも羨むかもだが。
「ダメだぜ、チャンスはものにしないと」
「一人、間にいるのにどうものにしろと」
「そこはホレ、三人で」
できるか。
「付き合ってどれくらい?」
「えっとぉ、まだひと月も経ってないな」
「そうなのか。
ウイナーは恋人いなくなって一年だよ。一年間ずっと寂しくて体鍛えてたよ。おかげで筋力はついたけどさ」
腕を見せてくる。見せて、力こぶ一つ作る。
「筋肉に惹かれる女性もいるんじゃない?」
「そうなんだけどさ。ウイナーはウイナーの内面を見てほしいわけ。
前の彼女はウイナーの顔しか見てなくて、別れ際のセリフが「なんか思ってたのと違った」だぜ?
心が合うかどうかちゃんと考えてほしいよ。
まあコロッと彼女に転んだウイナーも悪いんだけどさ」
「大事なポイント置き去りだったわけね」
「だったわけだ」
「涙覇? 誰と話してるの?」




