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第103話 未来の――

 聖霊に傾いてはいなかった、はずだ。


「いいえ、本当に刹那だけ変わったの。

 フォビドンフルート・ファーストリビジョン。聖霊へのクラスチェンジ。

 そしてセカンドリビジョン。アイドルの行使。

 サードリビジョン。XR(クロスリアリティ)への質量贈与。

 使用したのはこの三つよ」


 ……気づきすらしなかった。気配すら感じなかった。

 となるとオレたちの探知の精度を遥かに上回る。

 これが、SSS級。

 教皇ステイ・クラリティーの実力。


「わたくしの力は神人系統(タイププレアー)――ルート“ウラニア”。

 占星術と天文を司るギリシア神話の女神で、平たくいえば未来予知者。“シードル(りんご酒)”と呼んでいるわ」


 アイドルは、常日頃からの“祈り”の結晶であるアイドルは全部で六系統に分類される。


 神人系統(タイププレアー)・霊魂と心と祈祷に接続し神仏の姿と力を降ろす能力

 天魔系統(タイプメモリー)・霊魂と心と記憶に接続し天使か悪魔の力を降ろす能力

 機械系統(タイプリアリティー)・霊魂と心と現実に接続し機械化する能力

 遺伝系統(タイプヴェセル)・霊魂と心と体に接続し獣人化する能力

 結交系統(タイプドール)・霊魂と心と他者に接続し使役する能力

 超常系統(タイプフューチャー)・霊魂と心と未来に接続し分類不能の力を得る能力


 息と、唾を飲み込む音がした。ウェディンからだ。

 未来予知の凄まじさを正しく理解したからだろう。


「おそろ――あ、いえ。素晴らしい力ですね」

「ふふ。

 ありがとうウェディン。

 分かってもらえたなら見せたかいがあるわ」


 威張るのではなく、謙遜するでもない。

 教皇ステイ・クラリティーも自身の力を正しく理解しているのだろう。誇りを持っている表情だ。

 その横ではサアが小さく手を叩いていたりする。母に尊敬のまなざしを向けながら。


「見せたかい……オレたちに見せたのにはちゃんとした理由がある、と言う事でしょうか?」

「ええ。そうよ。

 自慢したかったわけではないから。

 サア」

「うん。

 えっと……」


 なにやら【(はたがしら)】を操作し始めるサア。どうやらまだ操作に慣れていないらしくちょっとだけもたついているが、子供っぽくて可愛らしくもあった。


「良し。

 これをご覧ください」


 そう言ってホログラムウィンドウをこの場の全員に見えるよう大きくして一つの画像を表示する。


「? なんだい、これ?」


 画像は写真ではなく手書きの絵だった。

 真っ黒な背景に、二つの流れ星が輝いている絵。流れ星は上下から流れていて、もう少しで衝突しそう――と言うか衝突している。

 色鉛筆で描かれたものをスキャンしたのか、それとも【(はたがしら)】にあるお絵かきソフトを使ったのかまでは判別できない。が、重要なのはそこではないだろう。


「母がシードルで見た未来をお絵かき練習中のわたくしが描いたものです」

「未来の――」

「絵」


 ウェディン、オレの順に確認するように声に出す。

 未来予知の絵ならば重要度が高くなってくる。


「どう思いますか?」

「どうって……」


 ウェディンに目を向ける。彼女は「一つしかないわよね?」と言うように頷きを一つ。


「二つの勢力が衝突する絵、じゃないのかい?」

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