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その花は、夜にこそ咲き、強く香る。  作者: 木立 花音
第四章:水瀬茉莉のトラウマ
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【幕間】

 その日の夜。風呂から上がった僕がリビングに入ると、テーブルの上に置かれた一枚の画用紙を囲み、母親と佐奈が座っていた。


「なに見てんの?」


 テーブルの脇に立ち上から覗きこんで見ると、画用紙に描かれていたのは男性と思われる人物画。クレヨンで、少々奇抜な色使いをされた三頭身くらいの人物が、柔和な笑みを見せていた。


「保育園でね、佐奈が描いたの」

「パパをかいたんだよ、似てるでしょ」


 ああなるほど、と言いながら、佐奈の頭をわしゃっと撫でた。


「よく描けてる」

「えへへ」


 にんまりとした笑みを浮かべた佐奈は、ご満悦だ。

 決してお世辞などではなく、確かによく描けている。それなのに、話題の中心にいる佐奈を、疎ましく感じている自分を心の底でそっと意識する。

 まただ。

 また、僕の悪い癖。

 佐奈にとっては大好きな父親で、もちろんそれは僕だって同じなんだけれど、でも、僕にとってはやはり血の繋がっていない父親で。

 違う、そんなこと関係ないと頭で必死に否定をするも、佐奈と父さんの間に存在する絆と、僕と父さんの間に存在する絆とでは、重みが違うんじゃないかと、不毛なことを考えた。


「でもね、金賞とれなかった」

「そっか、残念だね」


 なんて、取り繕うような笑顔を浮かべたその裏で、ぽつんと取り残されたような気分になっている。ちょっとだけ沈んだ声を出した佐奈を見つめ、少しだけ安堵している自分がいる。

 僕は嫉妬しているんだ。妹だけが優遇されていると心の奥底で身勝手な我が儘を爆発させ、そして、嫉妬している。なんと、醜いことか。

 水瀬の母親が、娘に対して愛情を注いでいないことを、僕は不満に思っていた。だが、こんな醜い感情にとらわれている僕に、母親を非難する資格なんてあるのか?

 血が繋がっているから愛さなければならない。本当にそうか? では、佐奈を見て嫉妬を(たぎ)らせている狭量な性格の自分はどうか? 半分しか血の繋がりがないという事実が、免罪符になるとでも?


 リビングに満ちている母親と妹の声が弾んでいた分、僕の心は少し沈んだ。


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