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世界の神話・異聞  作者: 叶 遼太郎
だから、僕はここにいる
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実験考古学in古代

 気安く請け負うんじゃなかったと後悔するのは、僕の方だった。太陽すらお休み中の早朝、大漁の網を全力で引きながら、僕はなぜこんなことをやっているのかを考えていた。

 ルゴスに仕事の手伝いを依頼したバルバは、本来は大工の棟梁としてバシリアの成長の一翼を担っている。だが、ルゴスの人助けという思想に感化されたらしく、他の人々の仕事を手の空いているときに手伝いだした。すると、元々顔が広かった彼の元に向こうから応援要請が来るようになった。きちんと報酬も出すと言うし、自分の手では足りなくなってきたことをきっかけに、ルゴスや自分の弟子たちにも手が空いているなら、金が無いならと仕事を紹介し始める。バルバの教育の賜物か、弟子たちの働きぶりも高く評価された。

 いつしか、彼の元には職にあぶれた食い詰め者たちと各所からの応援依頼が集まってくるようになり、バルバは彼らの要望に応えるために職場に人を紹介する、派遣会社の先取りみたいな事を行うようになっていた。

 別にそれはいい。足りないところに足りないものを補充する。そこに金銭が発生する。人のニーズに対応してこその商売だとは思う。ただ、何でもかんでも受ければ良いというモノではないと声を大にして言いたい。

 最初は、野菜の収穫だった。剣を鎌に変え、ひたすらもくもくと中腰で作業を行う。現代科学のような刈り取り、収穫用の機器、ハーベスターとかコンバインとかは、当然存在しない。全て手作業だ。しかも野球場何個分かもわからないくらい広大な土地を、わずかな人員で行うのだ。太古の人々の凄さを思い知る。この作業を延々と繰り返すなんて、気が狂いそうだ。賽の河原の鬼だって流石に慈悲を与えたくなるような途方も無い作業量だ。

 僕が汗をだらだら流し、鈍い痛みを発し始めた腰を伸ばしている横で、クシナダは涼しい顔を崩すこと無く慣れた手つきで収穫して行く。しかも、僕よりも早いのだ。

「早いな」

 感嘆の声がもれ出た。気づいた彼女はそれをさして誇る事もなく「村でもやってたし」と経験を語る。彼女曰く力ではなくコツとのこと。姿勢や力の入れ方に無駄が多いと指摘を受けた。

 クシナダ先生の指導を受けながら作業を続け、日が傾き始めた頃、ようやく一区切りつけるだけの分量を終えた。慣れないことを長時間続けたせいで体が痛い。さっさと戻って休みたい。

「さ、次に行くぞ」

 バルバは当たり前のように言った。僕は耳を疑ったが、ルゴスはそれを当然のように受け入れていた。

 次に向かったのは建築現場だ。嵐の影響で崩れた城壁の修復工事らしい。バルバの弟子たちが先に作業を行っていたが、まだ予定の作業量まで進んでいないらしい。

「日が沈んだら、仕事は終わるものじゃないのか?」

 現代人の勝手なイメージだが、ライトなどで光源が確保できない時代は、日が出ている間しか働かないんじゃないかと思い込んでいた。単純に手元が見えないから危険だし、他にも夜行性の獣や野党に襲われたりする可能性が高いからだ。バルバも「普段はそうなんだがな」と、今回は例外という意味の言葉を使う。

「ある程度の仕事は次の日に回しても問題ないんだが、城壁はなぁ。敵対する国は全て平定されたとはいえ、バシリアに害を成そうとする連中はいる。滅んだ国の残党がそれこそ野党になって近隣住民を襲ってるって話もあるし、人を襲う野獣もいる。そいつらはまさに夜動く。急ぎ修復せにゃならん」

 急ぐからといって、なれない環境でなれない仕事を焦ってやる方が危険な気もするが、そういう問題でもないのだろう。彼らには人を助けたいという考えがあるが、自分のことについてはそこまで重要視していないようだ。否定はしないし、彼らの行動原理に納得はしている、が、理解は出来そうにない。僕とは根本的に違うからだ。

 とはいえ、一度手伝うと言った手前、無理のない範囲である程度は手伝うつもりでもいた。

 そもそも僕が彼らを手伝っているのは、ルゴスを観察するためだ。彼が知ってか知らずかはさておいて、ティアマットと通じている可能性は高い。知っているならば何か尻尾を出さないかと、知らないなら、彼が気づかないまでも、こちらで繋がりを察知できないかと考えている。ルゴスの行く先々のどこかで、ティアマットの片鱗が見えないか、見えればラッキー、くらいの軽い気持ちでついてきた。それは間違いだった。軽い気持ちなど、存在してはならない。軽い気持ちでいるから、いざというときに覚悟も準備もなく悲嘆にくれるしかなくなる。

 工事現場での救いは、コツもなにも関係ない、力業でまだ助かった。でかい石を積み上げる作業だ。このでかい石を運ぶ人足が不十分で、作業が進まなかったようだ。疲れで頭が上手く働かない僕にとっては単純な作業はまだ助かる。接着剤代わりの泥の上に、石をぼこすか積んでいく。運ぶのに数人必要な石も、僕やクシナダなら一人で運べる。

「・・・お前ら、凄いな! 二人でうちにこないか!」

 バルバが大工の道に誘うのを丁重に断る。壊すのはまだ得意だが、作るのは苦手だ。「残念だ」と本当に残念そうにバルバは言い、次の瞬間には「でも、よければまた手伝ってくれ」と頼まれた。一度断った手前即座に断りづらく、「僕がバシリアにいる間で都合が良ければ」と応えてしまった。交渉の心理学、ドア・イン・ザ・フェイスってやつか。人をまとめる責任者の立場から、何かを交渉も得意なのだろうか。

 おかげで、工事現場は予定よりも早く終わった。流石にこれ以降の仕事は無いので、僕らは帰路に着いた。夕飯は手伝いに行った農家やバルバから差入れとしてもらったイモ類? のようなものをヤギの乳を熱して煮込んだスープになった。匂いの癖は強いが、重労働をした後の胃袋に染み渡った。芋もホクホクで上手い。腹一杯になったら、今度は眠気が襲ってきた。想像以上に体は疲れていたらしい。マット代わりの干草の上でまどろんでいるとルゴスが言った。

「さて、明日も早いからな。もう寝るか」

「明日?」

 手伝いは今日で終わったものと思い込んでいた。

「ああ。バルバの頼み事はあれだけではないぞ。明日は川で漁だ」

 まだ、あったのか。軽い気持ちは後悔しか生まない。それが骨身に沁みるほど理解して、僕の意識は遠のいた。

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