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第23話 死霊魔導師は悪戯を容認する。

 ティウス公爵領に向かう馬車の中、まだ状況を飲み込め切れてない。


 ことを急ぐ必要があるためシュヴェールト辺境伯軍の三分の一、七百もの騎士の大移動だ。


 領地の各所から個別でティウス公爵領に移動となるのでそこまでの大所帯ではないにせよ、百名からの移動となる。


 そして俺が乗る馬車にはセレスと、なぜかヘルヴィが乗っている。


 魔道具を外したヘルヴィとセレスはにこやかに話を続けているが、本当に良かったのだろうか。


 セレスはまだわかる。


 一緒にレベルアップもしていたのだからその実力は間違いないし、駄目だと言ってもついてくるだろうからな。


 だが問題はヘルヴィだ。


 シュテルネ王国第四王子として知られ、まあ本当は王女なんだがゴブリン村の討伐戦に来ていい身分じゃない。


 当然、一人減った四人の護衛騎士からも激しい反対があったが、押しきる形でついてくることになった。


 ヘルヴィの結界は前回のゴブリンダンジョンのスタンピードでも、無くてはならない活躍だった。


 だから今回ヘルヴィの参加は正直助かるんだよな。


 おそらく今回は取り囲まれるようなことにはならないけどな。


 シュヴェールトから七百、ティウス公爵家の騎士たち、領都や地域を護る者以外、残りの五百が参加するからだ。


 それが取り込まれるとなると、ゴブリンは万近くいることになるだろうしな。


 三人しか乗っていない馬車内に女性特有の甘い香りが満ちている。


 最近はいつも一緒にいることの多い組み合わせだが、狭い馬車の中は少し居心地が悪くはないけど、落ち着かない感じだ


 外の景色でも見ようと、少し明かり取り窓を開け、外の空気を取り込む。


 空が茜色に染まりかけている。


 そろそろ今夜の野営予定地に到着する時間か。


 ティウス公爵領までは明日の昼にはつくだろう。


 そこから問題の森までも半日予定だ。


 その間も森近くの住民たちは眠れない時を過ごしている。


 だが予定の全軍が揃うまでは五日かかるんだよな。


 シュヴェールト辺境伯領でもティウス公爵領と別方向にあるところからの参戦する隊は仕方がない。


「ネクロウ、この討伐が勝利、それもこちらの被害を最小限に終わらせれば叙爵もあるのではないか?」


「それはないだろ。俺、まだ十歳だぞ?」


「我も十歳で公爵であり領地持ちだからありえんことではない」


「はわぁ~、ネクロウが領主様」


「その通りだセレス。しかもその領主夫人になるのだぞ!」


「りょ、領主夫人! ヘルヴィが第一夫人で私が第二夫人!」


「そうだ! 身分的に第一夫人の座は渡せんが、我とセレスがネクロウを支えればシュテルネ王国最大最強の領地になるはずだ!」


 なんだか俺の話題なんだけど、二人で世界を作ってしまっている。


 ちょっと入りづらいなと思いながらも俺のことを慕ってくれてるとわかる。


 暖かい気持ちに包まれながら、野営予定地到着の声を聞いた。





 夜、念話でデバンに起こされた。


『主、ティウスが主を貶める作戦を立てていたぞ』


『えぇ……住民の安心安全のためにそこは協力してやろうよ……』


『その通りなのだがな。『やられた借りは返す』と息巻いておりましたな』


 と、なぜか言葉の節々(ふしぶし)で笑ってる気がする。


『いやはや貴族とは面倒でいけませんなーあはははは!』


『いやいやいやいやいや、なにマジで笑ってるのデバン! 何かやって来たでしょ!』


『はて、私にはなんのことやら』


『ジェイミー、悪戯』


『あっ! こらジムなんで言うっすか! 内緒にしようって決めたじゃないっすか!』


 やはり何かティウス公爵にやって来たようだ。


『……怒らないから正直に白状しようね』


 話はこうだ。


 ジムが俺に対しての作戦を一部始終影の中から聞いていた。


 そこへデバンと周囲の魔物の警戒をしていたはずのジェイミーが来たそうだ。


 そこでジムから話を聞いたジェイミーは『ぶっ飛ばすっす!』と影から出ようとしたところを止める。


 ナイスだジム。次から魔石の分配は少し多くしておこう。


 だが、腹の虫がおさまらないジェイミーはデバンも巻き込んでとんでもない行動に出た。


 ティウス公爵の飲む酒に腹下しの効能がある毒草から絞り出した下剤をこっそり混ぜ込んだらしい。


 ティウス公爵だけに飽き足らず、その場にいた騎士たちのカップにも。


 深夜には下剤も効いて来るとか。


 待てよ? 別に命に関わることでもないのか?


 野営中の警備は寝る必要のないデバンたち三人がやってくれてるから心配する必要もない。


 不足の事態があっても基本的な夜警は交代で騎士たちがやっているしな。


 デバンたちのことを紹介できれば今までに無い安心な野営になるだろうが、それはできない相談だ。


『……ジェイミー。今回の件、不問でいいよ』


『良かったっすー』


『でも、次からやる前に教えてね? ティウス公爵にはまだやり足りないなって思っていたし』


『くははは! そうですな、主を貶めるような(やから)、私もギリギリを攻める案を考えるとしよう!』


『いい作戦、楽しみにしてて』


『うん。あ、夜警もしっかりお願いね』


『任せよ! ホーンラビット一匹近寄らせませんぞ!』

『腹下しの他もしっかり採取しておくっす! めちゃくちゃ痒くなるヤツがおすすめっすよー!』

『わかった、奴らの見張りも任せて』


 そういって念話が切れた。


 隣で眠るセレスの顔にかかった髪の毛を拾い上げて横へ流しておく。


 馬車の中は二人きりだ。ヘルヴィも一緒にと言ってたが、王族用の立派なテントが用意されたため、そっちで寝てる。


 ティウスたちが夜中に走り回る足音を聞きながら、まぶたを閉じる。


 ざまぁ、と心の中で呟き、意識を手放した。

 読んでいただきありがとうございます。


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