表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

第22話 死霊魔導師は困惑する。

「……しかしティウスがシュヴェールト辺境伯に魔物討伐の応援を打診に来ていたとはな」


 近くの森にゴブリンの村か……それも数千は下らない大規模な村だという。


 そんなに増えるまで発見できなかったのは、あまりにも警戒心が甘かったとしか言えない。


 ティウス公爵領は肥沃な土地によって農作物の生産が盛んだ。


 その反面、外敵が少ないため騎士の練度が低いのかも知れない……いや、低いのだろう。


 今回シュヴェールトに来た、仮にも公爵を護る騎士四人の実力が思っていた以上に低かった。


 レベルが上がっていたことと、魔法での不意打ちだったことを差し引いてもうちの騎士団とは比べる気にもならない。


 だから軍事的にも騎士団の練度も高いシュヴェールトの騎士団に依頼を持ってくるのはわかる。


 わかるんだけど、いくら爵位で下のうちだとしても、少々態度が傲慢過ぎだよな。


「はい、その通りです。しかしこの状況、断る選択肢が出てきた訳ですが、断るとなると被害を受けるのはティウス公爵領の住民」


 そうなんだよね、こういう時にいつでも割りを食うのはそこに住む住民たちだ。


「ネクロウはその遠征にシュヴェールト辺境伯の代表兼、回復要員として候補になっていたと」


「はい、私はヘルトヴァイゼ殿下も知る問題で辺境伯領を離れられません。長男、次男も今は大事な時期でして」


「ネクロウの兄たちは双子だったな、今なら学園の入試が始まるからか」


「ええ、我が家のことで申し訳もないのですがその通りです」


 まあ消去法だとそういうことだよな。


 王都のシュテルネ学園は貴族だからといって試験無しとはならない。


 平民も含めて能力のある者だけが入れる学園だ。


 だからこそシュテルネ学園に通えるかどうかは辺境伯家の未来にとても重要なことになる。


 シュテルネ学園を卒業したかしていないで、まわりからの目が、その者の価値が変わってしまうのだ。


 特に貴族にとって優先度の高さは想像以上だから選択肢から兄さんたちは外れたと。


 それに回復魔法を使えるものは多くない。


 うちは母様を慕って他領から移り住んだ人もいて、十二分に揃っている。


 だから応援に出向くにしても万全な体制で挑めるだろう。


 そこで俺の名前が出た。シュヴェールト辺境伯家の三男とはいえ、十歳の子供に代表を務めさせるのはどうかと思うけど。


 子供だからこそか……子供が代表ならどうとでも操れるとでも考えたのかも知れないな。


 討伐成功ならその功績を奪い、失敗なら責任を追及するとか簡単だと考えていそうだ。


 手足の砕けたティウス公爵家の三人の騎士を除き、無傷で拘束された騎士。


 俺に殴られ、目のまわりと頬が腫れ、口を切ったのか端から血が滲むティウス公爵を見る。


 その目はまだ諦めている者の目ではない。四人以外の今回同行した者に期待してるのかもしれないが、今頃は制圧されてるだろうな。


 もう一人、ヘルヴィの護衛騎士だったファートは駆けつけた他の護衛騎士によって拘束され床に転がされていた。


 父様とヘルヴィの、魔物討伐の話はまだ時間がかかりそうだ。


 なら今聞きたいことを聞いておこう。


「ティウス公爵様、一つ聞きたいことがあるのですが」


 メイド長は相手を言わない……いや、相手が公爵家の関連だから言えないから直接聞くしかない。


「……」


 ティウス公爵は俺を睨み上げてくるが返事はない。


「メイド長に暴力を振るったヤツはどなたですか?」


 そう言えば執事も見当たらないな、もしかすると執事も怪我?


「ネクロウ、それは私が言おう」


「父様?」


「メイド長を殴ったのは……ティウス公爵様本人だ」


 ティウス公爵が殴った……。


「女性に手を上げるなど、見下げ果てたものだなティウス。何があった、申せ」


「……」


 やはり口は開かない。


「ティウス、二度も言わせるな」


「……シュヴェールト辺境伯と、その回復が使えるというネクロウとやらを待つ間、……相手をするよう命じたが断ったのでな」


 観念したように口を開いたティウス公爵はそう吐き捨てた。


 その相手をすることがお茶を出したりする相手ではないことはわかった。


 メイド長は俺から見ても美人だからな。


「私が部屋に入った時は殴られるところでしたので、止める間もなく」


 そのことをヘルヴィがメイド長に確認すると、『その通りです』と認めた。


 断る際、握られていた手を振りほどこうとした時、ティウス公爵の腕を叩き落としてそうだ。


 平民が貴族に手を上げる行為は厳罰になってしまうことが多い。


 今回は殴られた時に父様が現場に入ったからそれだけで済んだが、もう少し遅ければおそらくもっと酷いことになっていたはずだ。


「それでどうするのだ? ティウスが暴力を振るったにせよ、ネクロウも戦闘の最中とはいえ、メイド長の傷分は返したと思うが」


 ヘルヴィの言葉にもう一度ティウスの姿を目に映す。


 ヘルヴィがいうようにメイド長が受けた怪我より遥かにダメージは大きそうだ。


 でもそれは物理的ダメージで、精神的なダメージではない。


 ……いや、下位の貴族、それも当主でもない三男で、十歳の子供から受けたとなれば貴族としての誇りだとか自尊心のダメージは大きいだろうな。


「そう、ですね」


「落としどころはシュヴェールト辺境伯、ゴブリンの村討伐軍の全権をネクロウが(にな)う形で手を打たないか?」


「その子供に全権だと! ふざけるな!」


 そりゃそうだよな……俺もそう思う。


『ほほう。主が全軍の指揮を。これは我らも腕がなりますな』


『いいっすねー、偵察なんかは任せるっす、ゴブリンどもの規模から構成まで丸裸にするっすよー』


『ネクロウ様なら、当然』


 デバンたちがやる気を出してるけど、決まらないよね?

 読んでいただきありがとうございます。


 今日はここまでです。

 明日も2話投稿します。


 ブクマや★★★★★で応援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ