第18話 死霊魔道師ほ初依頼請けることにしました。
『ジム、それ本当?』
『あっち。テーブルの四人』
不自然にならないよう飲食スペースに目を向ける。
四人組は一つ。言われてみれば、四人全員がニヤニヤと俺たちの方を見ている。
食事の途中なのか、テーブルには料理が並んでいるのにそれには目もくれず。
その視線の先を追うと、セレスと、魔道具を外したヘルヴィに向かっているとわかった。
『話聞いてきたっす。主たちのこと人気のないところで襲う計画立ててたっすよ』
『いつの時代もああいった輩は居なくならないもんですな』
『噂にあった新人冒険者を襲うってやつだよね、よりによって俺たちを狙うなんてな』
俺たち三人はレベルも上がり、冒険者でも中堅程度なら余裕であしらう自信がある。
それに加えてデバンたちもいるからな、襲ってきたら返り討ちにするってことでいいか。
後続のためにやっつけておく方がいいに決まっているけど、変に騒ぎを起こして護衛が復活したりするのは避けたい気持ちもある。
『ネクロウ様、どうする?』
少し考え、俺が選ぶ答えは決まった。
『様子見、かな。今のままだとギルドに報告するにしても証拠もないから捕まえることもできないしね』
『そうお考えなら何も言いますまい』
現状わかっているのは犯罪の計画をたててるだけだ。
いくらなんでもそれだけじゃ捕まえることはできない。
『了解』
『俺たちが見張って置くっすから、主たちは依頼を楽しむといいっすよー』
『お願いね』
依頼を見つけたセレスに合流する。
「二人とも、これとこれとこれ!」
セレスが目をキラキラさせながら指差したのは三つ。
・採取:薬草、毒消し
・討伐:ホーンラビット、ワイルドボア
・採取:キノコ
どれも受け付けする必要もない常設依頼。依頼の品を持ち帰れば依頼完了になるものばかりだ。
「妥当な選択だなセレス。ネクロウもこれでいいよな?」
「問題ない。懸念はキノコだけど十日ほど前に採取して場所も記憶してるしね」
「やった! じゃあさ、ほら、早く行こう!」
初依頼は常設の依頼を請けることにした。
森の湿った土と草木の青い匂いの中に獣臭が混ざってきた。
『主ぃー、ワイルドボアがいるっすよー』
『この先、キノコ食べてる、急いで』
「食べつくされちゃう! セレス、ヘルヴィ急ぐよ!」
「うん!」
「行こう!」
獣道を走り始めてすぐに、『ブギッ』とワイルドボアらしき鳴き声が聞こえた。
一分もかからず倒木のある場所にたどり着いてすぐにワイルドボアが見える。
「ヒールショット!」
倒木に生えたキノコに夢中なワイルドボアが、俺の声に反応したがもう遅い。
ヒールショットは狙い通り左前足の付け根に吸い込まれた。
『ブギィイイ!』
ドスンと横倒しになるが攻撃した俺の方を睨んでくる。
一撃では倒せなかったようだ。
そこにヘルヴィも攻撃を加える。
「くらえ! ウォーターアロー!」
立ち上がろうと踏ん張っていた足に水の矢が突き刺さる。
「行っくよー! やー!」
いつの間にか俺たちを追い越し、ワイルドボアの向こう側まで回り込んでいたセレス。
倒木の上から飛び降り、冒険者になるからと新調したロングソードをワイルドボアの首へ振り下ろした。
『プギッ!?』
それに気づいたが時すでに遅く、木漏れ日を反射する刃がワイルドボアの首を切り裂いた。
「やったよー! わぷっ!」
ワイルドボアにとどめを刺したロングソードを掲げ、ぴょんぴょん飛んでいるセレス。
その顔へ時間差で血が吹き出した。
ワイルドボアの血抜きをデバンたちに任せ俺たちは食い荒らされたキノコの中から無事な物で、大きなものを選び採取を始めた。
「ヘルヴィがいて助かったよ。帰るまで血まみれのままだと思ってたもん」
「セレス。お前も生活魔法くらいは使えるようになった方がいいぞ。もちろんネクロウもだ」
「それはそうだな。生活魔法は平民のものだから覚えれば仕事を奪うと言われてたけど、冒険者だもんな」
「ネクロウと一緒に魔法勉強してたけど、教えてくれなかったし、そういうことだったんだね」
セレス、その話、一緒に聞いてたよね……。
「そんなのただの貴族の怠慢だ。自分でできることなら何でもやるべきだと我は思うぞ」
「そうだな。ヘルヴィ、生活魔法を俺とセレスに教えてくれないか?」
「うんうん! ヘルヴィ教えて!」
ぶんぶんと首を縦にふるセレス。
「任せよ。だが我の教えはちと厳しいのでな、覚悟することだな」
どや顔でほんのり膨らんだ胸を張るヘルヴィ。
和気あいあいと森の依頼を続け、十分納品数を集めきった俺たちが森を出ようとしたところ、四人組に道を塞がれた。
ジェイミーにギルドにいた奴らが待ち伏せしてると聞かされていたので心構えはできている。
顔を隠すでもなく堂々と俺たちの前に立ちふさがる、お世辞にも清潔そうに見えない出で立ち。
四人ともに抜き身のワンハンドソードを手に持ち、血の染みか、薄汚れた服にボロボロの胸当ての姿だ。
見た感じまったく強そうには見えない。これなら結界魔導師のヘルヴィでも物理で勝てそうだ。
「なんだ? 何も持ってねえじゃねえか」
そりゃ全部影の中にしまい込んだから手持ちはないように見えるか。
「おいおい採取依頼もまともにできねえ新人だったのかよ」
そう思われてもしかたないよな。
「予定と違うぞ、このままだと俺たちも稼ぎ無しかよクソガキが」
は? 朝から今まで何してたんだ? もう三時は過ぎてるぞ?
「焦るな。よく見やがれ、コイツらの装備はそこそこの値で売れる品物と見た」
そう来るか。採取したものを掠め取るくらいだと思いたかったけど、完全に強盗だな。
「さすがリーダー。目の付け所が違うねぇ」
「そういう事だからガキども、装備は全部置いて行け」
ワンハンドソードを肩に担ぎ凄んでくる。
「馬鹿野郎ども、逃がしてどうするってんだ。身ぐるみはいでガキどもは闇の奴隷商に売るんだよ」
闇の奴隷商……シュヴェールトにもあるのか。
それならもう護衛つくから嫌だとか言ってられない。
コイツらから情報を聞き出しその大元を潰さないとな。
「あー、そうだった。完全に忘れてたぜ」
『デバン、ジェイミー、ジム。殺さないように気絶させてくれるかな?』
『任されよ!』
『ほいほいっす!』
『了解』
まだ手にも入ってない俺たちを売った金で、あーするこーすると賑やかだった四人がその場で崩れ落ちた。
何をされたのかもわかってないだろうな。
読んでいただきありがとうございます。
本日は、昨日、予約ミスで投稿できてなかったお詫びに5話投稿します。
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