第17話 死霊魔道師は冒険者ギルドに行く。
冒険者登録をした夜、いつものようにセレスとヘルヴィが俺の部屋に来ていた。
「どうしたものか。護衛どもがついて来て依頼を受けることになる」
「うちも騎士を二人つけると言ってた」
今さらだがヘルヴィは第四王子だから護衛がつくのは当然だ。
俺も三男とはいえ辺境伯家、それに三人とも十歳、幼いってこともあるだろう。
「自由に動けないねー」
セレスの言葉に俺とヘルヴィの口から『はぁ』とため息が重なった。
『困りましたな。それでは我らの計画が進まない』
それが問題だ。
俺たちの立てた計画の目標はレベル50。
王国最強といわれる近衛騎士団の団長さんがレベル66。
最初はそれ以上を目標にしようと思ったのだが、50でも相当頑張って到達できるレベルなのだが……。
『そっすねー、主がレイスを護衛たちに取り憑かせれば行けるんじゃないっすか?』
「そうか! その手が――」
『ネクロウ様駄目、長いと精神、壊れる』
被せてジムの駄目出しが入った。
「あ……そ、そうなんだ、精神が壊れるなら使えないよ」
「請けられる依頼は討伐ではなく街中でのものくらいか」
「採取なら森でできなくはないけど、ゴブリンの件があるから許してくれないだろうな」
ゴブリンダンジョンを攻略したことは当然報告していないから、いまだに騎士たちは日々森に入りゴブリンを駆除している。
そのせいで罠の確認にも行けてない。謹慎中だったこともあるが。
『でしたらもう謹慎中と同じように夜の短時間で済ませる他無いでしょうな』
『そっすねー』
『でも効率、悪過ぎる』
それしかないとわかっていても、ジムの言う通りなんだよな。
「強引だが我らの護衛任務を一日置きに我の護衛と、シュヴェールトの騎士に分ければ……いや、我がいては厳しいか」
なんとなく言いたいことはわかった。
護衛騎士たちはこうして夜、俺の部屋に遊びに来たりする時はついてこなくなった。
だけど、さすがに依頼を請けて外に出る時は何を言ってもついてくるだろう。
でも、うちの騎士だけの日ならヘルヴィが『ついてくるな』と言えば採取依頼くらいは行けるかもしれない。
「むー、考えても答え出ないなら、今日もレベル上げに行こうよ」
「セレスの言う通りだ。ネクロウ、今日はどっちのダンジョンに行くのだ?」
「あ、わたし硬いモンスターがいいな!」
セレスのリクエストに応え湖のダンジョンに行くことになった。
俺たちは護衛無しで冒険者ギルドに来ている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝食が済み、冒険者用の装備に変え集まった時である。
ヘルヴィが俺を見てニヤリと笑った。
何かあるのかと様子を見ていると、俺から視線を外し、護衛たちに向かって思ってもなかったことを言い放った。
「なんだお前たち。今から修練か?」
「……いえ、我々は殿下の護衛騎士です。当然護衛をします」
そりゃそうだ。ヘルヴィは何を考えてるんだ?
「はぁ、お前たちは馬鹿か」
「で、殿下我々は殿下の護衛ちょっと任務をするためにここにいるのです。なぜ馬鹿と!」
「はぁ、考えてみよ。冒険者である我に王国の騎士がついて回るのかと言っている」
「いや、しかし我々が殿下の護衛をしないと言うのは……」
「そもそも冒険者に護衛がつくなどあり得ない。もし護衛だとバレた時は我の素性を怪しむ者も出て来るだろう」
なるほど、それもそうだ。ヘルヴィの笑いで何かを企んでいるとは思ったが、考えたな。
新人冒険者でしかない俺たちに騎士が護衛につくわけ無い。
ついて来るとすれば選択肢は多くないだろう。
それも誰でも思い付くような簡単な選択肢だ。
まずは金持ちか貴族の子かと二択で済む。
そこでもう少し考えるだろう。『なぜ騎士が?』と。
となれば答えは一つしかない。貴族の子供だ。
貴族の子女を狙うリスクは計り知れないが、それでも無くならないと言うことはそれだけのメリットがあるのだろう。
もし、人攫いがいたなら、護衛付きの子供は探す手間も無い、狙い目で、これ以上無い獲物だ。
不意でもついて護衛を倒せば成功だからな。
「なるほど、流石ヘルトヴァイゼ殿下、考えが深い。しかしそうすると、我らもネクロウ様についていくのは控えた方が良さそうですね」
うちの騎士がヘルヴィの考えに賛同してきた。
ならば後押ししなきゃな。
「まったく考えてなかったよ。護衛がいることで危険が増すなんて」
「その通りだネクロウ。請けるのはキノコや薬草類の採取だ、そこに出るモンスターは何がいる?」
「そうだね、出るモンスターはホーンラビット、ワイルドボア、ビッグラットだけ、だよね?」
うちの騎士に話を振る。
「そうですね。我々はゴブリン討伐をここ十日ほどやって参りましたが、薬草採取をする森の浅いところですと、それで間違いはないかと」
「そういうことだ。護衛は必要ない。それにだな……」
一呼吸置いて護衛たちに微笑みながら続ける。
「……離れた王都から療養のためとはいえ、我につきて来たお前たちは気の抜く間もないだろう。たまには休養も取ってもらいたい」
「殿下……我々のことをそこまで……」
おお、感動したのかうるうるしてるぞ。
「それにお前たちも修練を通して知っているだろ? ネクロウやセレスの強さを。ウサギやイノシシに負けるなどあり得ん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヘルヴィの口車に乗せられた形だが、採取依頼では護衛無しに決まったからだ。
「ネクロウ、キノコと薬草の採取依頼あったよ」
依頼が貼られた壁を指差すセレスがぴょんぴょん飛びながら手招きをしてる。
「くくっ。行こうかネクロウ」
「あんなに興奮して、疲れなきゃ良いけどな」
そういう俺もテンション上がりまくってたりする。
ヘルヴィもいつになく声が弾んでいるし。
なんだかんだ言っても初依頼だ、絶対成功させるぞ。
『ネクロウ様、怪しいヤツいる』
そんな気分を台無しにしそうな念話が届いた。
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