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第16話 死霊魔導師は冒険者になる。

 あの夜から平穏な日々が続き、謹慎が解かれる日となった。


 そして今、俺とセレスはメイド長の案内で父様の執務室へ向かうところだ。


 わざわざ呼び出さなくても朝食の席で言うとか、謹慎解除だけ伝えてくれればと思わないでもない。


 でも執務室か、中々入れてくれない場所だけに少し楽しみでもある。


 途中、貴賓室前にいつも通り護衛が立っているのが見えた。


「ねえネクロウ様、ずっと気になっていたんだけど、ヘルヴィ……殿下はずっとここにいてもいいのかな?」


 おお、メイド長が聞いてるところで呼び捨てしそうなところを上手く誤魔化せた。


 メイドの勉強で少しは成長しているようだ。


 左手を伸ばし撫でておく。


 へにゃりと思案顔が笑顔に変わった。


「ヘルヴィ殿下はこのシュヴェールトには療養で来てるからね」


 そこへメイド長が補足を入れてくれる。


「その通りです。期限は特に定められていませんので、王子殿下がお決めになられるか、陛下から召喚されるまでおられることになるでしょう」


「そうなんですね。ネクロウ様共々よくしてもらっているので長く一緒にすごせるの嬉しいです」


 療養に来て『長く』は前世では禁句だが、メイド長が注意しないってことは大丈夫なようだ。


 貴賓室の前まで来ると、ニコニコ会釈してくれる一人、剣の修練に付き合ってくれる騎士さんだ。


 俺もセレスもお世話になってるから会釈を返しておく。


 もう一人はよく分からない。来た当初からムスっとして話したこともないし。


 それに、この見下すような目はちょっとどころか結構不快に感じる。


 一応このシュヴェールト辺境伯家の三男なんだし、こんな態度は普通ならないと思う。


 当然だけど、会釈はしない。


 通りすぎた直後、『チッ』と舌打ちが聞こえてくる。


 これもこの護衛だけだし、本当に何が気に入らないんだよ。


 あ、ヘルヴィの護衛としてやって来たが、本当は王都に帰りたいのかもしれない。


 でも俺たちにあの態度を取る理由にはならないよな。


「ねえ、あの護衛の人、いつも睨んでくるよね」


 セレスもやはり気づいていてようだ。


「俺もそう思ってた。理由が分かればいいんだけど、話したこともないしね」


「仲良くしてくれたらいいのにね、ちょっと怖いし」


「だよな」


 ヘルヴィの言ってたことが一番しっくり来るんだよな。


 まあ、不確かなことで疑うのは違うか。


 あれこれ考えても答えは出ない。今夜、また(・・)レベル上げに行く時、不自然にならないよう聞いてみよう。


 セレスにも聞かれないようにしなきゃ駄目だな。


 セレスは正直すぎるから高度な隠し事は苦手だ。


 何かの拍子にヘルヴィのいう潜り込んだ者に感ずかれても良くない。


 廊下から窓の外に目をやると、本降りの雨が小雨になっているのがわかる。


 もしかするとこの後剣の修練やれるかもしれないな。


 この数日で三人のレベルは俺が21、セレスが18、ヘルヴィは元々レベル上げをしていたようで、23に上がっている。


 身体能力がレベルと共に急激に上がってるから騎士たちとの模擬戦は手加減が難しい。


 普通の十歳の子供のレベルは10も無い。


 街の側溝や村の畑などに出没するスライムをいくら倒してもそこまで上がらないからだ。


 それを考えると俺たちのレベルは高過ぎになる。


 ヘルヴィの話だと、護衛騎士でも25~30程しかないそうだ。


 謹慎が解け、ヘルヴィのお陰で冒険者登録も父様の許可が下りたとなれば、さらにレベルも上がっていくだろう。


 だから三人で相談し、勝たないようにしながら技術を学ぶことにした。


 昼間はシュヴェールトの騎士と護衛騎士から。


 夜はデバンたちからだ。


 今のところやはりセレスがパワーもあってか剣では頭ひとつ抜けて強い。


 攻撃魔法ならヘルヴィだな。職スキルの結界は当然として、多種多様の属性魔法が使える。


 一撃の威力なら俺も負けていないが、死霊魔法の他はやはり回復魔法しか使えなかった。


 属性魔法って格好いいし使ってみたかった……。


 そんなことを考えながらしばらく歩くと執務室に到着した。


 メイド長がノックして扉の向こうへ声をかける。


「ネクロウ様とセレスをお連れしました」


『入れ』


 短い返事が帰ってくると、内側から扉が開かれた。


 執事が開けてくれたようだ。


「こちらに来て座りなさい」


 執務室に俺とセレスだけが進み、声のした奥のソファーへ向かう。


 目に入ったのはソファーに座る父様ともう一人の男性だ。


 お客さんが来ていたのか? それなのに俺たちを招き入れるってことは、関係ない人ってことは無さそうだな。


 パタンと背後で扉の音がした。


 キュルキュルと軽い音もついてくる。


 執事さんが俺たちのお茶を台車で運んできてるようだ。


 示された二人掛けのソファーに、お客さんらしき人へ会釈してから座る。


 間を置かずに俺たちの前にお茶と茶菓子が準備された。


「もう少し待つように。ヘルトヴァイゼ殿下もじきに来るのでな」


 ヘルヴィも来るの? と疑問の視線を父様に送るが返事はない。


 まだ教える気はなさそうだ。


 というか父様の向かいに座っている人に聞かれてもいいのか? ヘルヴィの所在はほいほい知られていいことではないのに……。


 この人、貴族ではなさそうだ。何者だろうか。


 良い服に見えるが、貴族お得意の刺繍がまったく無いシャツを着ている。


「ああ、この者が気になるか、この者はシュヴェールトの冒険者ギルド、そのマスターだ」


 ギルドマスター! なぜそんな人が……もしかして俺たちの冒険者登録のために?


「お前たちだけならギルドで登録で良かったのだがな、登録でヘルトヴァイゼ殿下と知られてはならんと、陛下や私と旧知でとあるこやつに来てもらったのだ」


 陛下と父様が旧知ってことは学園で一緒だった仲間ってことか。


「ギルドマスターで、アモルファスだ。無いと言いたいが、相手が相手だからな、やれる危機管理はやらないと後が怖い」


 そういって肩をすぼめる。


 父様とアモルファスさんの昔話を聞いてると、アモルファスさんは元々侯爵家の四男で、今は家を出て平民になってるそうだ。


 高位貴族だったのにその身分を捨てて冒険者の道を選んだのか。


 ちょっと格好いいなと思っていたら、ヘルヴィが来て、滞りなく冒険者登録が完了した。


 登録する時魔道具に名前と年齢が表示された。


 今更ながら、職業やスキルが表示されなくて良かったと思う。


 背中に嫌な汗をかいたが、渡された銀色のカードにはデカデカと『F』の文字を見て、なぜか少し嬉しくなったのは内緒だ。

 読んでいただきありがとうございます。


 ブクマや★★★★★で応援よろしくお願いいたします。

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