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第15話 死霊魔導師の未来設計は崩壊するようです。

 団員が全員三人を大きく包み込んだ後、少しずつ闇色を濃くしながら小さくなっていく。


 最後は三人の輪郭だけが残り、その姿を現した。


 デバンの武骨で重厚だった黒鎧が、光までも吸い込むんじゃないかと錯覚するほど漆黒に変わっていた。


 そして背負うグレードソードも幅が広くなり、もう曲がることがないと思わせるほど厚みも増している。


 それに上背が頭ひとつ高くなり、重く硬い鎧と剣を装備してなお軽やかで重さを感じさせない筋力を手に入れたことが見て分かった。


 ジェイミーも軽装で、胸当てだけだったはずが無駄を削ぎ落としたような引き締まった体に密着した艶消しの全身黒鎧へと姿を変えている。


 腰の双剣に至っては、黒い反のある鞘で片刃の剣、そう刀を意識させる細身の剣が二本。


 ジムは正統な騎士の出で立ちだが、先の二人と同じく黒鎧だ。


 そして一番目を引くのは左手に持つ盾だろう。なんの装飾もない武骨な盾だが、バックラーからタワーシールドまで自由に形、大きさを変えて見せた。


 あらかた自身の変化と装備を確かめる三人の近くで、十人の団員たちが消えたところに落ちていた魔力が抜け、割れた魔石を拾い集めていた。


「ネクロウ様。こっちにも落ちてたよ」


 セレスが比較的大きなものと、細かくガラスの破片のようになったものまでメイド服のエプロンに乗せて持ってきてくれた。


「ありがとうセレス。そこに置いてくれるかな、はぁ、こうバラバラだから組み立てるのは無理そうだ」


 上面が比較的平らな岩の上に十個分はあるバラバラの魔石。


 まだ団員たちの最後の言葉が耳の奥に残っている。


 もう完全な脱け殻となった魔石だけど、地に打ち捨てておく気にはなれななかった。


「ネクロウ、持ち帰り、我が贔屓(ひいき)にしている職人に補修を頼んでも良いぞ」


「え? こんなにバラバラだよ?」


「全く問題ない。あの魔道具を加工した職人だからな腕は保証するぞ」


 なぜかドヤ顔のヘルヴィ殿下だが、凄いのはその職人さんだと思う。


「そうなんだ、なら、お願いしようかな、だけど……その、俺、死霊魔導師だけどいいの?」


 そうだ。ここに来る前に聞きそびれたこと。


 歴代魔王がもっとも就いていた職業死霊魔導師。


 討伐済みだが直近でも多くの国で多大な被害を出した魔王の職業だ。


 それは各地に点在する墓で眠る者たちを汚し、その子孫たちを手にかけさせた大罪人。


 そりゃ、今回、ダンジョンのスタンピードを食い止めたとはいえ、デバンたち死霊騎士団と共に成したとは表沙汰にはできない。


 それにともない俺たちが食い止めたとも言えるわけがない。


 十歳の子供三人でやったと言っても信じられる者もいないだろう。


 それも、今、シュヴェールト辺境伯の屋敷で寝ているはずの三人が、誰にも見つからず屋敷を出て、さらにはモンスターが蔓延る森の奥深くまでたどり着いてなんて誰が信じるというのか。


 どれもこれも俺が死霊魔導師で、眷属にした死霊騎士団の力がなければできないことだ。


 知られれば確実に俺はシュヴェールト家から排斥され、さらには犯罪者のように指名手配され、捕縛されれば未来は決まっている。


 処刑だ。


 だから黙っていようと決めたのにな。


 俺の言葉に返事が詰まるヘルヴィ殿下。


 岩の上に魔石を並べていたセレスの手も止まり、俺の顔をじっと見つめている。


 その沈黙を破ったのはヘルヴィ殿下だった。


「……はぁ、仕方がないな。ネクロウ。死霊魔導師のことは黙っていよう。それでよいな」


 一瞬何を言われたのか分からなかった。黙ってる?


「何を呆けている。ネクロウ、お前は我の裸を見たのだぞ?」


 それは――そうなんだけど……。


「責任は取ってもらう。ならば将来婿になるお前の不利になるようなことするわけがないだろ。まったく」


 婿に? いやいやいやいや何を言ってるんだこの王女殿下は!


 婿だと俺が王族の身内になるってことだぞ? 死霊魔導師の王族なんて前代未聞過ぎる。


 それは駄目だと口を開こうとしたところにセレスがひと足先に話し始めた。


「え? えっと、ずっと聞きたかったんだけど、ヘルヴィさん? あなたって男で凄く肥ってたあの王子さんで間違いないよね?」


 そういえばバタバタしてて説明もなにもしてなかったな。


「おおそうか、セレスには始めて見せたのだったな。そうだ。少し事情があり変装していたとでも思ってくれ。これが本当の我だ」


 あまり詳しく話さない方がいい。知ると身の危険にさらされる可能性のあることだからな。


「そ、そうなんだ、あと、ヘルヴィさんはネクロウ様と結婚、するの?」


 というか、セレス、ヘルヴィ『さん』は不味くないか……ヘルヴィ殿下は気にしてないようだが、もし咎められるようなことになれば命を懸けても守ろう。


「先に言ったように、裸を隅々まで見られ、この胸を頬擦りされたのだ。しないわけにはいくまい」


 ……その後膝枕もしてもらいました。


「それだったらわたしもネクロウとお風呂だって入ったし! 洗いっこもしてんだからね! おちん、ごにょごにょ、まで洗ったんだから!」


 ちょっ! セレスなに言ってるの!


「ほほう。ネクロウ。現時点で嫁が二人か、やるではないか」


 嫁が二人……どこのハーレム野郎だよ……。


「これは国に多大な貢献をもたらし叙爵、我が嫁入りするのだ、伯爵くらいには最低成り上がってもらわないとな」


 ヤバい、シュヴェールト辺境伯の片隅管理監計画が……。


 それよりセレス、俺の奥さんになるのは良いんだ。


「嫁が二人。じゃ、じゃあわたしとヘルヴィさんは仲良しにならないと駄目なんだね」


 いや、あのね、ちょっと落ち着こう二人とも。


 でももう止められそうもない、よな、この流れ……。


「その通りだ。セレス。我らだけの時は敬称など入らん。ヘルヴィと呼び捨てにしてくれ」


「うん。ヘルヴィ、これからネクロウ様のお嫁さんとして仲良くしてね」


「ああ。よい、よいな。はじめは解毒のためだけに来たというのに、婿と嫁仲間まで我にできるとは。シュヴェールト辺境伯領に来てよかったぞ」


『ネクロウ様、おめでとう』


 セレスとヘルヴィ殿下のお喋りが続く中、ジムからお祝いの念話が届いた。


 でも、思ってた最悪のことにはならないみたいだな。


 色々方向転換や作戦変更もこれから考えなきゃ駄目だな。


 団員たちが消えた戦場跡地に夜風が吹き抜け、胸の奥、心に走っていた痛みを撫でていく。


 楽しそうな二人の優しい笑顔と気遣いが、団員たちが消えた悲しみと痛みを和らげてくれた。

 読んでいただきありがとうございます。


 ブクマや★★★★★で応援よろしくお願いいたします。

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