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第1話 死霊魔導師になりました。

「死霊魔導師は駄目だろ……」


 寝起きに突然職業を授かった。それは良い。ほとんどの者が十歳で授かると言われているからだ。


 俺も十歳の誕生日を越えているから不思議でもなんでもない。


 だが、その職業が死霊魔導師だと話は別だ。


「まさか俺が……」


 足の力が抜け、ヨタヨタと数歩後ろにさがり、寝台に足が引っかかって背中から倒れ込んでしまった。


 いつもの見慣れた天井が見える。


 倒れ込んだ拍子に舞い上がったホコリが窓から射し込む日の光でキラキラと瞬いていた。


「どうしたら良いんだ……」


 モンスターが蔓延る魔の森の脅威から国の盾として、自身が率先して武力をもって領地治めるシュヴェールト辺境伯であり、【剣聖】の二つ名を持つ父様。


 その父様を支え、回復魔法を得意として、【聖母】、昔は【聖女】と呼ばれていた母様。


 その息子がよりにもよって忌み嫌われ、死をもてあそび汚し、魔王の職業として歴代最多と言われる職業なのもいただけない……死霊魔導師は駄目過ぎる。


 微かな希望と言えるこは死霊魔導師が得意な魔法とは正反対に位置する【小回復】という魔法スキルがあったこと。


 母様のおかげだな。ありがとうございます母様。


 幸いなことに、死霊系はレベル1なので、スキルは【死霊使役】のみだ、低級な死霊と意志疎通して、相手しだいで従えることができるというもの。


 幸いにもそれだけしかできなし、相手の死霊が拒めば使役も無理。いや、そもそも使役するつもりもないんだが。


 と、するならば、だ。


 ……死霊魔導師のことは隠しておくことにするしかない。


 表に出すのは【小回復】だけ。


 まかり間違って公にでもなったとなると、シュヴェールト辺境伯から魔王候補が出たと叩かれるのは想像がつく。


 ならば回復魔法が使えるんだ、回復魔導師……駄目だな。魔導師ともなれば将来高位な回復魔法が使えないとバレてしまうだろう。


 なら、魔導師の下位、回復魔法使いを授かったと父様たちに報告するのが良い。


 嘘をつくことになってしまうのは少々心苦しいが、死霊魔導師であることを明かすよりは混乱もないだろう。


「よし。思ったが吉日という(ことわざ)もあるし……諺? 諺か……どこかで……い、痛っ」


 何か忘れていたことを思い出しかけたところで、頭に激しい痛みが走り、見覚えのある映像が流れ込んできた。


 満員の通勤電車でもみくちゃになる姿や、作業中のモニターに山積みの資料、そんな映像がフラッシュ暗算のように浮かんでは消えていく。


「いぎぃいいいいぃっ!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 目を開けると、目に映ったものは見知った天井だと理解できた。


 チラチラと揺れるランプの炎に照らされているってことは、夜で間違いないようだ。


 またズキっと頭に痛みが走るが一瞬だけで、すぐにスッと何事もなかったように痛みは消えていった。


「ふう。いったいなんだったんだよ……」


 また痛みがくるかもと身構えながら体を起こす。


 朝に意識を失い、夜まで寝ていたならみんなに心配をかけたかもしれない。


 まずは心配してるだろう両親のもとへ向かうべきだな。


 と決めたところ、とんでもないことに気付いた。


 シュヴェールト辺境伯家の三男、ネクロウ・フォン・シュヴェールトである自分の記憶と、もう一つ、広告会社で働く高卒三年目の、名は思い出せないが男のものだ。


「あー、俺、死んだんだった」


 楽しくてのめり込み、日に七時間残業なんて当たり前で、運命の日も完徹……死因は過労だろうな。


 それも自分から進んでやっていたことだし、いいわけにもならない自爆だ。


 今さらだけど、会社で倒れ死んだなら……迷惑かけてしまったかな?


 俺は好きな仕事ができて楽しかった。楽しくて休むこともせず、残業も迷惑がかからないように、いつも定時にタイムカードも押していた。


 人事部は入退室の記録も管理していたから把握していたかもだけど注意も指導も無かったから、ついつい働いてしまってた。


「はぁ。そう言えばコーヒーは飲んでたけど、最後に食事したのいつだったんだ?」


 倒れて死んだ時は百連勤目前だったな……なら二週間近くコーヒーだけで過ごしていたわけか……。


「死ぬだろ俺!」


 大声を出してハッと気づき口を押さえる。


 ガタンという音と共に、部屋の扉の向こうに人の気配が動いた。


『ネクロウ様! お目覚めですか!』


 声で俺の世話(遊び相手)をしてくれているセレスだとわかる。


『入るよ!』


 そう言ったとたん、バンと勢いよく両開きの扉が開き、廊下の灯りが部屋を少し明るくした。


「ネクロウ様!」


 長い白髪と白い肌に部屋のオレンジ色をしたランプの炎が映り込ませ、トトトと引きずりそうに長いスカートの前をつまみ、駆け寄ってくるセレス。


 頑なにサイズ違いのメイド服を体型に合った物に変えないからだ。


 そもそも厳密に言えばメイドではない。


 俺と同じ十歳の女の子で、たまたまお忍び外出中に街で見かけ、虐められていたところを助けたら懐かれたんだよな。


 前世でも生き物は拾ったことのない俺の初体験でもある。


 拾ったからにはと、服がボロボロだったので着替えさせることにした。


 屋敷に子供用の用意なんて俺の物か、兄たちのものしかなく、大人用(メイド服)を『これ、着てみる?』と言ったのが始まりだ。


 小柄な女性用(メイド服)を着た途端に、『ネクロウのメイドになる!』と言ったセレス。


 実質的にメイドではなく、付き人(遊び相手)のようなものだ。


 その後、気に入ってるならと、メイド長に子供用を仕立てさせたんだけど、『これはネクロウ様からいただいたメイド服です! 一生の宝にいたします』とクローゼットにしまわれているんだよな。


 メイドならしまわずに着ろよ……。


「セレ――ズッ!」


 セレスは走りよってきた勢いのまま、突っ込んできた。


 そう、それはまるでじゃれつく犬とでもいえばいいか、それも中型犬だ。


 そんなのがブレーキもかけずにつっこんで来たらダメージ確定。


「ネグロヴざまあああ! よがっだのでずぅ!」


「っく、セ、セレス」


 なんとか声を出し呼ぶと、お腹に埋めていた顔が上を向く。


 ぶつかったからか、ホワイトブリムがずれているし、赤い大きな瞳が涙でにじみ、頬をぬらしている……あと、鼻水も……。


 腰に回された腕も、子供とは思えない力で締め付ける。


 ヤバい。背骨がポキポキ鳴り、息を吸うのも困難だ。このままだと窒息で気絶してしまうだろう。


 腕をほどこうとするが、完全に力負けしている。


 そう、セレスは大人顔負けの力持ちだ。


「だい、じょう、ぶだから、ね」


 刈り取られそうな意識をなんとか繋ぎ止め、セレスの頭を撫でる。


「ネグロヴざま」


「うん、しんぱ、い、かけて、ご、め……」


 あ、駄目、だ……も、無理……。


 職業を授かり前世を思い出し、息の詰まる抱擁で締めくくられた波乱に満ちた一日でした。

 異世界転生の新作を読んでいただきありがとうございます。


 今日はこの後第3話まで投稿します。


 ブクマや★★★★★で応援よろしくお願いいたします。


 ※カクヨムにもあります。

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