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私は侍女ではありません

 

 今代の討伐隊に選ばれたのは、この国の第三王子である勇者ライオネル、建国以来何度も騎士団長を輩出してきた伯爵家出身の剣士ニール、治癒能力に優れ何人もの重篤な症状を治療してきた功績を持つ聖女フローラ、そして高い魔力を持ち攻守共にバランスの取れた魔術師マリンである。

 優れたリーダーシップを持つライオネルを中心に経験を積み、この調子であれば大丈夫だろうと思っていた国王たちであったが、ではマリンはなぜ討伐隊を辞退したいなどと言い出したのだろうか。


 未だ騒つく議会の中、徐に胸元から紙束を取り出した騎士団長が、淡々と読み始めた。


______________________________

 

 この度魔術師として任命を受けましたマリンと申します。一平民の私がこのような要望を申し上げるのは不敬であるとは思いますが、現状のままでは討伐の旅に出ることが不安視されるため、騎士団長に辞退を申し出た次第です。

 

 まず、私は今回の討伐隊の中での唯一の平民です。普段は魔術学園で勉学に励み、将来的には魔術師団に所属したいと考えております。そのため、魔力の高さを買われ討伐隊の一員として任命されたことは大変光栄なことであり、王国の平和のために力を尽くそうと使命感を持っておりました。

 しかし数度の遠征を経て感じたことは、このままでは自分の最大限の力を発揮できないということです。


 これまでの遠征では討伐隊だけでなく、世話係として多くの騎士団員や侍女が同行していました。しかし、本命であるドラゴン討伐では私たち4人しかいません。

 私は田舎育ちの平民ですから、自分の身の回りのことは大体できます。

 比べて他の3人はどうでしょうか。特に侯爵家のご令嬢であるフローラ様は、まさに深窓の令嬢という言葉がぴったりの方です。

 初めての遠征では馬車のクッションが少ないと嘆かれ、歩き慣れない山道に早々に根を上げ休憩を要求し、騎士団員の作った食事も半分以上残しておいででした。多少の体力はついたようですが、その後の遠征でも侍女のマッサージやお髪のケアは必須、お気に入りのコックを近隣の街や村に待機させ食事を運ばせるなど、さすが貴族のお嬢様といった振る舞いに、私は不安を覚えたのです。

 

 はっきりとした期間が定められない旅の中で、誰がフローラ様のお世話をするのか。


 勇者と剣士は男性ですので、残るは私のみです。

 しかし私は魔術師として討伐隊にいるのであって、フローラ様の世話係でも侯爵家の侍女でもありません。

 そもそも侍女の方のような技術もありませんので、お互いストレスを抱えるだけかと愚考致します。

 

 フローラ様は平民の私には雲の上の方ですが、身分に関係なく優しく声をかけて下さる穏やかな性格で、もちろん浄化能力の高さは言うまでもなく討伐隊に不可欠な方であるのは明らかです。誰かに世話をされるのが当たり前というフローラ様のお育ちになった環境と、この旅の環境の落差が激しすぎるだけなのです。


 よって「自身の身の回りの世話はできる限り自分で行い、それが難しい場合は世話係等を同行させること」を明文化して頂きたいのです。


______________________________

 


「つまり人柄や能力に問題はないが、過酷な旅には向いていないということか」と国王がぽつりと溢すと、会議室はなんとも言えない空気に包まれた。

 身分に捉われない公平さ、持って生まれた才能を活かしたいと思う熱意もある。

 ただフローラのお育ちが良すぎた、そういうことである。




フローラは貴族のお嬢様だしこういうこともあるかなって。

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