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王都フィロストン侵攻計画

「さて……」


 ステラとツァラストの姉妹が退室したところで、ローズがまとめ役として作戦会議が始まった。

 本来なら立場的にアルヴァなのだろうが、父親目線でニコニコしながら見守っていた。

 親バカというやつである。

 何かミスったら止めてくれるとは思うが、ローズも海に出てからかなり実戦経験を積んだのでたぶん平気だろう。

 それに戦力的に海上国家ノアに所属する者が多いので、ローズの方が適切というのもある。


「まず、目標を定めておきますわ。えーっと、作戦図を作りたいのですが、何かコマとして置く物……」


 作戦図とは、地図の上に敵味方の戦力などを置いて現状をわかりやすくするためのものである。

 書き込む場合もあるが、リアルタイムで討論する場合は動かせるコマの方が良いと判断したのだろう。

 ノアクルは、スキル【リサイクル】で自分たちを模したコマを作り出した。


「こんな感じで良いか?」

「う、上手いですわ……。一流の造形師の手によって作られたかのようなミニチュア……販売できるレベル……」

「ふはは! 仲間のイメージなら解像度が高いからな!」


 仲間だけではなく、他のコマも作っていく。


「……他のコマに関しては緩く下手ですわね」

「解像度が低いからな!」


 ダスト兵や、〝欲〟のスキルを持つ者が抗議しそうな出来だった。

 ランドフォルであるレメク王に関しては、イメージからか凶悪さが際立つ顔面だ。

 封印されし海神に対してはハテナマークのコマとなっている。

 名前はおろか、姿すら知らないからだ。


「海神と封印装置四ヶ所を王都フィロストンに配置、私たちをこの砦の位置に配置っと……」

「これで位置関係がわかりやすくなったな」

「さて、私たちの目標は王都の地下、海神から力を吸っている四つの封印装置を破壊して、同時に王城にいると思われるランドフォル――レメク王を倒すことにあります」


 ローズはノアクルたちのコマを王都へ動かそうとするも、ダスト兵のコマに阻まれてしまう。


「おさらいですが、直接の最短距離で行こうとしてもダスト兵に阻まれて作戦失敗です。そこで、王都近くにあるアタノールの街に設置された〝湿った道〟と呼ばれる長いトンネルで地下から王都を目指します」


 ノアクルたちのコマをアタノールへ移動させてから、王都へと向かわせる。


「ここで封印装置破壊チームと、ランドフォル討伐チームに分かれることになります。こちらの戦力は殿下、ジウスドラ様、トレジャン、獣人三人組、アスピ様、ダイギンジョーさん、ステラさんとツァラストさん……ですかね。お父様は――」

「オレは王国軍を指示して王都の人間の避難を行う」


 たしかにアルヴァは戦力になりそうだが、その指揮能力を使って一般人の避難をさせてもらった方が良さそうだ。

 普通の王国軍兵士では足手まといになる可能性が高いし、今回の戦いの規模がわからないので人々は避難させておいた方がいいだろう。


「おほー、これだけの味方がいれば余裕に見えるぜぇ!」


 トラキアが調子よく言うが、ローズの表情は決して明るくない。


「一見そうなのですが……このダスト兵がもし……」


 ローズはダスト兵のコマをいくつか王都内に配置してみた。


「作戦当日に王都内も守りを固めている、もしくは侵入を察知された段階で外のダスト兵が内部へ増援としてきた場合が苦戦しそうですわ……」


 ダスト兵は普通の攻撃が効きづらい。

 こちらが倒されなくても、ダスト兵を突破するのに時間がかかって作戦失敗になる可能性が高いのだ。

 このダスト兵に対処できるメンバーは現状だとノアクル、トレジャン、それとツァラストらしいが対ランドフォル用に向かわせたいところでもある。

 たぶん、ランドフォルも同じような防御方法を使ってくる可能性が高いからだ。


「俺のトラッシュボックスを誰かに貸すか?」

「殿下、トラッシュボックスとは?」

「この闇鉱石で作ったゴミ入れベストのことだ。俺が名付けた」

「いきなり名付けられた物を言われても普通は通じませんわ……」


 ローズはもう慣れたという呆れ顔だ。


「うーん、でもそれを誰かに貸してしまうと、今度は殿下がダスト兵に対処しにくくなりますわ」

「そうか……。結局、この装備の分しか対処できる人数が増えないということか。そう考えると、もっとピュグたちドワーフに作ってもらっておけばよかったな」

「海上都市ノアさえここにあれば、もっと……」

「エンジン修理の予定はまだかかるらしいからな……この戦いには参加でき――」


 そのときだった。

 突然、部屋の中に呼び出し音が鳴る。


「ん? なんだこの音は?」

「ゴールデンリンクスから運び込んだ魔術通信機だにゃー!」


 ジーニャスは近くにあった魔術通信機のボタンを押し、スピーカーにした。


「お、おい。まだどこからかかってきたのかもわからないのに」

『――こちら海上都市ノア、ピュグ・アーマードワーフですます! ゴールデンリンクス、応答お願いですます!』

「ピュグか!? でも、どうして……死者の島付近だと通信できないはずじゃ……」

『もうアルケイン王国の海域近くに来ているですます』

「なに!? まだエンジンの修理に時間がかかるはずだったんじゃ……」


 死者の島からゴールデンリンクスで出発した当初、修理日数的にアルケイン王国へは間に合わなかったはずだ。

 それがいったい、なぜこんなに早く近くの海域まで来ているのか。


「もしかして、ピュグが一人で泳いでやってきて……」

『それは()の国の人魚でもないと無理ですます! 実は、ディーロランド王国が修理のための人員を寄越してくれて予定が早まったですます!』

「ディーロランド王国が?」

『死者の島の調査をしてくれたお礼と、世界を救おうとするノアクルさん様への敬意を表して、とのことらしいですます』

「ディーロランド王国のラデス王……良い奴だな!!」


 人の情に感激するが、ローズが少しだけ呆れた表情をしていた。


「ラデス王は結構抜け目のないところがあるので、海上都市ノアの技術力調査や、急激に勢力を増している殿下と交友を深めておくためですわね。間接的に世界を救ったとアピールをして国内外の求心力を高めることもできますし、自国の船を危険に晒すこともないので」

「そ、そうなのか?」

「はぁ……。私が補佐しますので、殿下はそのままの殿下で良いですわ。ラデス王の協力がありがたいのは確かなので」


 よく考えたら今までやってこられたのは、悪意を見抜く目を持っているムルだったり、宰相のような立場で補佐してくれるローズだったり、その他の仲間たちがいたからなのだろう。

 それでも、一人ですべてのことができる完璧な人間になりたいとは思わないので、それはそれで良しとしよう。


「さてと、海上都市ノアも戦力に入れるとなると――」


 そこからはさらにローズが才能を発揮して、立案された王都フィロストン侵攻計画を強固に構築していった。

 アルヴァは娘の成長に感動し、瞳を潤ませている。

 計画が詰められ、あとは海上都市ノアがやってくる日時まで待機となった。

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