本当の道
――アスピによるアタノールの街の話が終わった。
それを聞いていたノアクルたちは明るい表情ではなかった。
「みんなが無事はよかったのだが……。十万のダスト兵の上空を飛んで、王都に攻め入るための〝渇いた道〟というルートは破壊されたというわけだな……」
「これでまた振り出しに戻ってしまったにゃ~……」
「打つ手無しでありますな……」
ノアクル、ジーニャス、ステラは気落ちしていたのだが――その他のメンバーは不思議と明るい表情だった。
「ん? お前ら、どうしたんだ? 王都へ攻め入る唯一のルートが破壊されたっていうのに……」
「それは――別に唯一のルートとは言ってませんから」
ツァラストが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「なんだって!? ということは別のルートがまだあるということか!?」
「ああ……お義兄さんの驚いた表情……ツァラストは愛しく思ってしまいます」
「ふゎー!! ローズガード!!」
抱きつこうとしてきたツァラストを、ローズが両手を大きく広げて防いでいた。
なぜローズが必死に防いでくるのかはわからないが、弟の許嫁とそういう関係になる気は無いので助かった。
「ローズさんも、もちろん愛しています」
「ぎゃー!! 何か抱きついて頬にキスしてきましたわー!!」
どうやらツァラストは男女お構いなしのようだ。
このままだとローズが大変なことになりそうなので話を戻そう。
「ツァラスト、別のルートについて聞かせてもらえるか?」
「今回壊された〝渇いた道〟はフェイクプランです」
「偽装工作か?」
「はい。ミディ・オクラさんにも協力してもらい、わざと敵側に発見させることが目的でした」
「えぇっ!? ミディ君がただのおっちょこちょいじゃなかったってことだにゃ!?」
ジーニャスが地味に酷いことを言っている。
「たしかに〝渇いた道〟で王都まで射出されたら普通に死にそうだしな……。ネタになるのはアスピくらいか」
「ノアクル、ワシだけじゃなくてお主も結構そういうことをされている側だと思うぞい……」
聞こえない、聞こえない。
「本命は上空へ射出ではなく、地下のトンネルから行く〝湿った道〟です」
「トンネルなら危険性はなさそうだな。そちらを成功させるために〝渇いた道〟で欺いたということか。もしかして、アルヴァさんとローズがガンダーの街への偵察を出したのも――」
「はい、実は最初から王国軍と協力体制にあり、〝欲〟のスキルを持つものたちの警戒を分散させるための偽装された布石の一つでした」
「すべて計算されていたというわけか」
「私、ではないですけどね。すべてジウスドラ様の叡智です」
「やっぱりジウスか、まったく……デキる弟だ。全部、手の平の上だと言われても納得するぞ」
ツァラストはクスッと笑った。
「ん? 何かおかしいことを言ったか?」
「いえ、そのジウスドラ様でも、お義兄さんの行動だけはいつも予測不能だと仰っていました。今回も、お義兄さんが移動したところでは想像以上に〝欲〟の方たちを倒してしまっていたので」
少しだけ思い出す。
そういえば、【睡眠欲】のシープ・ビューティーを砦で撃破した。
次に移動中に【食欲】の鬼牙を撃破した。
最後にガンダーの街で【愛情欲】のドロシーと、【殺傷欲】のキリィ・カウントだ。
ドロシーに関してはジュエリンだが。
「ちょ、ちょっと待つのじゃノアクル。ジウスドラとは、お主の弟のあのジウスドラじゃろ? そもそも、彼奴がゴミ流しの刑などという残虐なことをしたから――」
「それはジウスドラ様ご本人から聞いた方が良いと思いますが、すべてはお義兄さんを助けるため……だったとは先に言っておきます」
「なんじゃと……!?」
周囲のメンバーだけでなく最初の仲間であるアスピですら驚いているのだが、ノアクルだけは平然としていた。
「まぁ、そんなことだろうとは薄々感付いていた。納得したよ」
「の、ノアクルが納得したのならいいんじゃが……」
ノアクルはジウスドラという存在を理解している。
兄弟なのだから。
どんな思惑があったかというのは、あとで本人が聞かせてくれるだろう。
「さてと、それよりも王都へ乗り込んでランドフォルをどうやって止めるかだな。その〝湿った道〟というトンネルを進んで、レメク王をぶん殴りに行けばいいんだろう?」
「いえ、実はそうも簡単にはいかず……」
「ツァラスト、どういうことだ?」
「そうですね、そろそろこちらの事情も交えて話した方がわかりやすいと思います。少し話が長くなりますが……」
「わかった、気になるところもあるし聞こう」





