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光彩陸離のジュエリンVS愛情欲のドロシー

 ジュエリンは、庭職人が綺麗に刈ったであろう植木を指で撫でながら、庭を優雅に歩いていた。

 それを友達のように、しかし戦闘が始まらない距離感で付いていくドロシー。


「結構、手入れされてるじゃないの」

「これから、じゅえじゅえが爆発でぶっ壊していっちゃうっしょ~、エグち」

「おほほ、普通に綺麗なものが、その散り際に見せる姿はさらに美しいものよ。この宝石たちのようにね」


 ジュエリンは宝石を見せつけるが、まだ投げはしなかった。


「散り際……じゅえじゅえ、あーしのパパと少し考え方が似てる? 知らんけど」

「ノンノン。宝石が壊れるときが美しいのと、幸せな人間が絶望するときが好きなのとは違うわね。人間の精神性、相手の気持ちなんてアタイは求めてないもの」

「ふーん、でも、それって悲しくない? 黒髭の人の気持ちも求めてないの、じゅえじゅえ?」


 ジュエリンは機嫌が悪そうな表情になってしまった。


「べ、別にそういうわけじゃないけどさぁ……。こっちから与える無償の愛でも満足なのよ、大人のアタイは」

「あーしはよくわからない。自分に向けられる愛は多ければ多いほど良いっしょ」

「もしかして、小娘がキリィと一緒にいるのって……」

「うん、パパはあーしを拾ってくれただけで、血は繋がっていない。けど、愛してくれてる。キリィ海賊団のみんなも愛してくれる。街のみんなも愛してくれる。じにゃぴも愛してくれる。きっと、これから世界中の人も愛してくれるっしょ」


 ドロシーのテンションは今日の天気を話すようで、ジュエリンとしては狂気を感じて引き気味だった。


「アンタ、異常ねぇ。キリィとは血が繋がってなくても、とってもお似合いだわ」

「えへへ、ありがとうっしょ」

「褒めてない」

「じゃあ、愛してくれた?」

「皮肉すら通じない、やっぱり頭がおかしいわね……話していても埒が明かないわ」

「愛してくれないってこと? それなら、もうええでしょ」


 ドロシーはスキルで出している三体に攻撃指示を出した。


「あーしを愛してくれない人は、いらないっしょ。やっちゃえ、ライオンちゃん!」

「ガキの考えね」


 飛びかかってくるライオンに向かって赤い小玉の宝石を弾いた。

 顔面に直撃させるも、一瞬怯んで動きが止まっただけだ。

 それなりの耐久力があるらしい。


「それなら中玉よ……!!」

「ざーんねん、来るのがわかってる強攻撃はキャンセル界隈」


 怯んだライオンに中球の宝石を投げるも、ブリキが盾となって防いできた。


「あら、よく先読みできたわね」

「カカシっちがエグちな戦略を立ててくれるからね」

「なるほどねぇ。つまりライオンがアタッカー、ブリキが盾、カカシが頭脳と……」

「そゆこと」


 ジュエリンはベテラン経験から、現状を分析する。

 敵がスキルで呼び出した三体は、バランスの良い召喚系のスキルだ。

 先ほどの通りにライオンが攻撃をして、カカシが観察し、ブリキがその情報でモーションなどが大きい攻撃を的確にブロックする。

 これは四人を相手にしているようなもので手強い。

 いや、正確には三人だろうか。

 スキル使用者のドロシーは何もしていない。

 ある意味、スキル名の通りに愛情欲を満たしているだけだ。


「でも、いいのぉ? アタイにスキルの情報を話しちゃってさぁ」

「だって、じゅえじゅえって黒髭の腰巾着でザコっしょ。あんな見かけ倒しの黒髭の下についてる可哀想な人に、せめてもの情け。いぇーい、ギャルピ!」

「マジで舐めてるわね、この小娘……」


 イラッとするも、敵からの挑発には慣れている。

 大事なものを馬鹿にするというのは常套手段だ。

 クールに、トレジャン海賊団として、勝つために手持ちの宝石を確認する。


 小玉のルビー(赤)、爆発の威力は低いがかさばらないので数を持ってきている。

 中玉のルビー(赤)、爆発の威力はそれなりで手持ちは数発あるが、連射できるほどではない。

 大玉のルビー(赤)、特大の威力だが一発のみの切り札、外したら終わる。


 中玉のシトリン(黄)、これは使用すると強い輝きを放って目くらましとなる。一回使うと警戒されるだろう。


 中玉のエメラルド(緑)、バリアを作ることができる。攻撃の方が好みなのでそんなに数は持って来ていない。


 中玉のラピスラズリ(青)、物体を浮かす力があって逃走用に一個だけ持って来ている。


 あとの宝石は置いてきていて、所持してはいない。

 さて、今の状況は考えるとかなり不利だ。

 手持ち的に、簡単に勝てる相手ではない。

 最適解を考えるのなら、シトリン(黄)で目くらましをして、ラピスラズリ(青)で空中から逃走だろう。


(だけど、そうもいかないわよねぇ……)


 ドロシーがフリーになった場合、キリィに加勢する可能性が高いだろう。

 決闘(タイマン)を邪魔しないとしても、トレジャンがキリィに勝ったあと、疲弊しているトレジャンに襲いかかってくるのは確実だ。

 少し話しただけでも、そういう人間だというのはわかる。

 となると、戦って勝つしかない。


「考えごとをしてないで、ちゃんとあーしを愛しなさいよ!」

「くっ」


 ライオンが突進してきたのだが、今度は小玉のルビーすらも手元を観察されて避けられた。

 鋭い爪が顔面に迫る。


「乙女の顔を傷付けるのはNGよ!」


 中玉のエメラルドでバリアを張って、ギリギリのところで防ぐ事に成功した。

 そのまま素通ししていたら、顔が傷付くどころか、ライオンの長く鋭い爪によって脳みそがコンニチワしてしまうところだった。


(ふぅ、間一髪ね……挑発に乗って冷静さを失っていたら負けていたわ……)


「乙女ってツラじゃなくてエグち」

「こんのクソガキャー!! アタイはピチピチのお姉さんだっつーの!!」


 再び突進してくるライオンに向かって小玉のルビーを放つ。


「キャハハ、怒っちゃった? でも、それも回避でキャンセル界隈っしょ」


 当然のように、さらに機敏に宝石を避けられてしまった。

 学習してきているのだ。


「こ、これならどうよ!!」


 今度はライオンを狙わずに、本体であるドロシーに中玉を直接投擲した。

 カカシの目がそれを追い、ブリキが中玉をドロシーの眼前で防ぐ。


「全然ダーメ、ざーこざーこ」


 ドロシーに煽られ、ライオンにタックルをされて、吹き飛ばされたジュエリンは鬼牙よりも鬼らしい憤怒の表情をしていた。


「ムキィー!! あんたみたいに性格の悪いガキが愛されるはずないじゃないのよ!!」

「あ、愛されるもん! 今だってみんなが愛して――」

「あんたの行動、全部愛されるためにやってんでしょ。その偽りの行動がなくなったら、みんなは愛してくれるのかしら? これから出会う人は本当のあんたを愛してくれるのかしら!?」

「そ、そんなの愛してくれるに……決まってる……」

「もしかして、小さい頃によっぽど愛されなくて、今になってそれを必死に取り戻そうとしてるだけじゃないのぉ!?」


 ドロシーの顔から表情が消えた。

 付けていた〝愛されるための化粧〟が消えて、素面になったのだ。


「うるさいうるさいうるさい!! お前に何がわかるんだよ!! 愛されなきゃ生きてる意味なんてないんだ!! 誰かからの愛がすべてなんだ!!」


 その怒りに呼応してか、再びライオンが突進してきた。

 ジュエリンはそれを無視して、ドロシーへ直接宝石を投げつける。


「あはは!! 冷静さを失ってとち狂って、またこっちに投げてきたっしょ!! 同じように――」

「同じじゃないわよぉ?」


 瞬間、宝石――中玉のシトリンはまばゆい輝きで目をくらませた。


「くっ!? これは……目くらまし!?」

「んで、これもプレゼント」

「見えないときに卑怯っしょ!! ――なーんて、言うと思った?」


 次にジュエリンが投げた宝石は、カカシに観測されていた。

 そのカカシに連動して、ブリキがオートで追撃の宝石を防ぐ。


「これで爆発なんてキャンセル界隈!」

「誰が爆発するなんて言ったのよ? 浮かび上がりなさい」

「へっ?」


 ドロシーは爆発の衝撃が来ると思っていたが、フワッとした感覚が襲ってきた。

 突然のことで混乱してしまう。

 目くらましから少しだけ視力が回復してきたのだが、一瞬だけ見えたのは青い宝石だった。

 遠くなる地面、ブリキも一緒に浮かび上がっている。

 これではブリキによるガードができない。


「そちらのカカシくんは一度見た物は憶えるっぽいけど、さっきと同じものだと勘違いしちゃった? 初見じゃこれが何かわからないわよねぇ。で、次にあたいがどうすると思う?」

「もしかして、お前ずっと冷静でいて、勘違いさせる布石を!? ぁぁぁぁあああッ!! ライオンちゃん、早くそいつを――」


 迫るライオンの爪、だがジュエリンはすでに最後の切り札――大玉のルビーを投げ終えていた。


「こうだったかしらぁ? いえい、ギャルピ!」


 大爆発に巻き込まれるドロシーと、寸前で消えゆくライオンを背景にジュエリンは余裕の決めポーズをしていた。


「あら、いいわねぇ、このポーズ。頂いちゃおうかしら?」


 ジュエリンは優雅に屋敷の方向へと歩いて行く。


「愛っていうのは与えるのも素敵なことよ。まぁ、小娘には早いかもだけどねぇ」

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