第16話:誘拐
◇スティシアside◇
「アオォーーーーン!」
「「「「「アオォーーーーン!」」」」」
狼の声が響き渡り住民が逃げ惑う、その中を私はすいすいと進みながら状況を確認する。
(旦那様やアミリア様達はもう討伐に動いてる、流石ですね)
城内で旦那様のご学友にお出しする夕食の準備をしていたら出遅れてしまった。
(それにしても、この魔獣たちいったいどこから出てきてるんだ?)
「——ぞ! 」
「——えろ!」
怒鳴り声が聞こえ周囲を見渡す、するとご学友の数名がガラの悪い男達に囲まれ気絶していた。
「全く……手古摺らせやがって」
「魔力を遮断する魔道具があって良かったですね!」
「あぁ、さっさと運び出しちまおう……」
よく見るとご学友の面々は両手に鎖の様なものが巻かれている、あれが魔力を遮断する魔道具の様だ。
(不味いですね……私の力と手持ちの武器じゃ壊せない)
ですが、今であれば油断がありますね……。
「全く、金になるとはい……ふにゅうぅぅぅぅ!?」
「どうし……はにゃぁぁぁぁぁ!?」
「おい!? ひぎゅ!?」
「なんだこれ……手足が……」
「……!! ……!!」
「ふぅ……この人数なら、僕一人でも対応できるかな?」
伸びている男達の前に影から出る、手に持った暗器には大型の獣ですら数秒で動けなくする麻痺毒が塗られている。
「くっ、やっぱり僕の武器じゃ壊せない……」
身体にぴったりとくっついた鎖はかなり太い、持っているナイフや針では壊せないだろう。
「あーあー、情けねぇなぁ……」
「——!?」
いきなり背後から声がして武器を構える、それと同時に衝撃が頭を揺らす。
「チッ……夜魔の影入りか。おい、さっさと運べ」
咄嗟に受け身を取りながら影に沈む、殴られた箇所のせいでまだ視界がくらくらとしている。
(駄目だ……判断がおぼつかない……今は……)
朦朧とする意識の中、ご学友の影へ移る、するとすぐに視界が暗転する。
(これは……不味いかもしれません、ユウキ様……)
意識を手放せないようにするのが精一杯だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇優希side◇
「これで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、魔王様!」
住民の治療や建物の補修を終えると、少し日が傾いていた。
「とりあえず城に戻って、皆の安全確認をしないとな」
城門内の広場へ戻って来ると、未だに避難をしている人が多い。
「ユウキ様!」
走って来るリリアーナ、いつもならそのまま飛び込んでくるのだが、目の前で停止する。
「ユウキ様、緊急事態が……」
「どうしたの?」
「ユウキ様のクラスメイトの1班と数名の住民が消えました」
「——えっ? それって……」
「恐らく、誘拐されたのかと……」
「あの混乱のタイミングか!」
「えぇ、それともう一つ……シアさんの行方も不明です」
「——へっ?」
重々しく口を開いたリリアーナ、シアが行方不明……?
「恐らく、賊を追っているのかと思われます。ですので、ユウキ様の探知魔法でさがしていただきたいのです」
「わかった、『——超広域探知』!!」
半径十数キロに及ぶ探知魔法で探す、するといくつかのシア普段からが使っている影魔法の反応が出る。
「影魔法の反応がいくつかあるな……」
「影魔法ですか!?」
「あぁ、しかもどいつも王都から15キロ以上離れてる……」
我が家で影魔法を使うのはクロコ、メアリーそしてシアでこちらの世界に来ているのはクロコとシアだけだ。
(クロコは王城に反応があるから違う、だけど……)
「となると、そのどれか一つがシアですね」
「あぁ。それに、どうやって誘拐犯達は街の関を抜けたのか疑問だったけど、まさか影魔法で抜けられるとはな……」
普通の門番達じゃ絶対に分からないだろうし、今度ユフィに言って解除出来る魔道具を作るべきかな。
「夜魔の方々が協力してるのでしょうか……」
悲しそうな顔をするリリアーナ。
「わからない、家族を人質にされて従わせられてるとかあるだろうし。とにかく行ってみるしか無いな」
「そう……ですわね……」
「リリアーナはどうする? ついて来る?」
「いえ、私とアミリアさんは王都の防衛に回ります。その代わりセレーネを連れて行ってあげて下さい。彼女の魔法は影魔法に対応できる魔法ですので」
「え、そうなの?」
なんか凄い情報が出て来たんだけど。
「はい、『宝石獣の宝石魔法は闇を晴らす光彩となるだろう』という文献をつい最近見つけまして。調べてみたら、我が王家が宝石獣との親交がありその理由も影魔法による暗殺を対策する為だったりするのです」
「なんか意外な事実だな……」
「はい、王家は一代が長い分定期的に宝石獣の宝玉を装飾品として着けていたようで、私の耳飾りもそうだったのです」
リリアーナの耳飾りは見る角度によって変わる宝石だ、なんとなくセレーネの宝石と似てるな。
「それって、宝石獣の里の皆は知ってるの?」
「いえ、虹の子と町長にだけ伝えられるそうです」
「そうだったのか……それじゃあセレーネと一緒に行ってくるよ」
「はい、お気をつけて!」
セレーネと合流して逃げているグループの一つ目に向かうのだった。




