第13話:他国からの侵入者
フィルレイシアの王城で準備を終えた後、クラスメイト達は市内へ散らばっていく。この後はノーブルブラッディでも市街散策をするので設けられた自由時間は3時間だけだ。
「さて……怪しい所はっと」
皆が市街を回っている間、魔装ホルスで王都の上を旋回しながら色んな所を視ていく、数か所慌ただしくなっている部分があるが、夫婦喧嘩や商人同士の取っ組み合いで間者関係とかでは無さそうだ。
「急すぎて、動けないのかな? んっ? あれは……」
早馬だろうか、貴族街を駆けていく馬が見える、しばらく観察しているととある家の前で急停止する。
「あれは……どこの貴族だろう、後でアレウスさんに確認だな」
家の外観や庭の形のメモを取りつつ待っていると、先程とは違う軽装の兵士が馬に乗り飛び出してくる。
「怪しいなぁ……」
上空から注視していると、元スラム街へ入っていく。
「あそこは最近整備した所だな、今は貴族の持ち回りで公共事業を任せてるんだよなぁ……」
前回の王都制圧戦で日和見をしていた貴族達が何もしないとマズいと思ったのか、慌ててスラム街改善の公共事業に立候補してきたんだよな。
因みに元スラム街の人達は教会と同時並行で就職の斡旋や、病気や怪我等の治療の必要な者は救護院で治療を受けてもらっている。
軽装の兵士はしばらく進むと馬を止め、小さな小屋の中に入っていく。
「クロコ、聞こえる?」
『はい! 聞こえます!!』
「怪しい所を見つけたから潜入、手伝ってもらえる?」
『わかりました! 服装はスーツにトレンチコート、ボルサリーノハットでよろしいでしょうか?』
「いや、普通に陰に隠れるから……いや、それもありか?」
『では、ご用意いたしますね!』
それからささっとクロコの出してくれた服へ着替えると、クロコと共に影へ沈み込む。
『さてさて、あたりだと嬉しいな……』
影に潜み扉の内側へ入ると、小ぢんまりとした部屋の真ん中に地下へと続く階段がそこにはあった。
『怪しいですね……なんだかワクワクしてきました』
最近学校に通うようになりより表情が豊かになったクロコが、ワクワクを隠し切れないのか良い笑顔を向けて来る。
『そっか。でも、俺達の知らない所で危ない事はしちゃだめだよ? クロコが怪我をしたら優羽も俺達も悲しむからね』
そう言って頭を撫でると、すこし落ち込む顔を見せる。
『はい……すみません……』
『今でも十分クロコは役立ってるし、助かってるからさ』
『はい!』
笑顔になったクロコを撫でながら地下へ向かう階段を見据える。
『じゃあ、下に向かおうか』
『はい!』
ジグザグに階段を降りていくと扉が見えた、突き当りだし先程の兵士はここに入って行った様だ。
『クロコ、これを持っててね。後、外には出ない事』
『はい、わかりました』
扉の隙間から中へ入るとかなり広めの部屋、屋敷の玄関ホールくらいの広さだ。
その中に、先程の兵士や顔まで隠したフードの人物、商人や町民に扮した人達が15人程居た。
「待たせたな、子爵様より情報が入った。異世界人共がこちらの世界に来たようだ」
「長かったな……」
「えぇ、いつバレるんじゃないかとひやひやしたわ」
「なぁ、本当にやるのか? 魔王も来てるんだろ?」
「あぁ、これは決まった事だ。我が国と姫君の力を使い魔工技術で大国になる為には異世界人の知識が必要だからな」
『大国にって事は、北西の小国群かな?』
『だと思います、魔道具の開発はこの国より上ですから。まぁ、ユフィ様には及ばないですが……』
『うん、それは間違いない。さてそろそろ出るか……』
クロコに影から出ない様に言いつけるとスッと部屋の奥に出る、どうやら影なのもあってまだバレてない様だ。
「はいはい、ちゅうもーく」
「「「「「!?」」」」」
一斉にこちらを振り向く工作員たち。
「さてさて「誰だお前は!!」」
「何やら面倒な事を考えてるようだ「誰だお前は!!」」
「少しは喋らせろ!!」
「誰ぎゃひん!?」
思わず躁血魔法で殴り飛ばしちゃった……。
「あっ……ごめん、つい……『——回復』」
顎の外れた男を回復魔法で治す、気絶してるので回復だけに留めておく。
「さてさて……あっ、逃げれないよ? その扉は俺が魔法で固めてるから」
血を染み込ませた木の扉は周囲の壁や地面とガッチリ固めている、出入口は一つしか無いのでこれでもう逃げる事は不可能だ。
「さてさて、いまから30秒あげる。その間に武装解除をして両手を頭の後ろに組めば無駄な怪我をしなくて済むよ」
「我が姫の為!!」
「今ここで目撃者を消せば!!」
飛び掛かって来るローブの男とチンピラっぽい風貌の男、二人共刃に麻痺毒が仕込んであるみたいだな。
「はぁ……無駄な怪我はしないって言ったんだけど……」
躁血魔法で刃物を砕き、下から串刺しにする。致命傷になる部分は避けてるので死ぬことは無いだろう。
「その魔法……まさか、魔王……?」
一人の男が震える声で呟く。
「正解。だからまぁ、逃げ出せると思わない方がいいよ」
先程串刺しにした男を回復しながらそう言うと、他の皆は諦めた様に武装を解除して行った。




