第110話:二国間食事会②
「お次はポワソン、龍魚のムニエルです」
メイドさんによって置かれたのは以前、宝石獣の里で釣った事のある龍魚という魚だ。
「龍魚だって!?」
「これまた希少な魚を……」
「そういえば奥方の1人が宝石獣と聞きましたわ」
「流石二国を収める方だ……」
ざわざわと重鎮たちの中で話が広がる、主に魔族側は俺の自慢を、人間側はそれを聞いて驚きの声が上がる。
「うーん……誇張が入ってるから結構恥ずかしいな」
「諦めなさい。優希のやってる事はかなり荒唐無稽だから」
「そうですね、尾鰭に背鰭、最終的には尻鰭まで付いていますからね」
思い当たる節があるのかそう言って来る二人、マジで?
「うぅ……こう見えても普通に生活してるだけなのに……」
「普通に生活してたら二つの国の王にならないわよ」
「それは、ごもっともです……」
「もう2~3個増やします? ユウキ様の頼みならお父様もエルフの族長様、ガリウス様も譲位してくれると思いますわ」
「止めてくれ、これ以上増えても困るよ……」
ただでさえ内政はシド様やノクタールさん復帰早々のアレウスさんにお任せしてるんだ、これ以上増やすのは気が滅入ってしまう。
「あら、残念ですわね……」
「本気で残念そうな顔をしないでくれ……」
そんな事よりムニエルだ、龍魚というだけあって身が焼くと黄金色に変化する、その色を邪魔しない様にバターソースとくし斬りにされたレモンが添えられている。
「ん~美味しい、白身魚だから淡泊かと思ったら凄く濃厚ね」
「そうですね、こんなに濃厚なのは日本でも食べた事無いです」
「ユウキ、この果実はどうするの?」
アミリアがレモンを指差して聞いてくる。
「それはね、こう……絞って使うんだ」
絞ったレモンをさっとかける、少し甘みのあるレモンだが爽やかさを加える。
「へぇ……んっ!? かけた方が美味しい」
アミリアを伺ってた他の皆がレモンをかけて食べる、一様に表情が美味しいと伝えている。
中にはかける前に食べてしまった人が、寂しそうにレモンを見つめている。
「先に説明しとくべきだったなぁ……」
――チリンチリン。
「はい、ユウキ様ご入り用ですか?」
「すみません、春華に確認してほしんだけど、二人分のムニエルって余ってるかな?」
「はい、確認してまいります」
扉の向こうに消えたメイドさんだが、すぐに戻って来た。
「ユウキ様、大丈夫だそうです、ご用意しますか?」
「はい、あちらとあちらの二人分で」
「かしこまりました」
それから間もなく先に食べきってしまった二人に出すと、とても喜んで食べてくれた。
◇◆◇◆
それから口直しの氷菓が出された、先程のレモンを使ったもので大好評だった。
そしてもうひとつのメインディッシュ肉料理が運ばれて来た。
「こちら雪羊のローストでございます、備えのマンドラゴラはこちらのソースでお食べ下さい」
出されたのは人間領の北部に生息する牧畜で、羊毛は少ししかとれないがその分高級な牛肉と思う程のサシが入っている。
「雪羊ですか……」
「うーん……」
「ここまでは良かったのに……残念です……」
皆が手をつけず口々に肩を落とす、それには理由があり。実はこの雪羊、サシが綺麗だったり脂が多いのだが、肉は極めて硬いのだ。それ故、保存食での食され方が普通だ。
「ユウキ殿、流石にこれは食べられないと思うのだが……」
「えぇ、でもそこはウチの春華です。皆さんも騙されたと思ってナイフを入れてみて下さい」
試しに肉にナイフを入れる、すると硬いのが嘘のように、ナイフが吸い込まれる。
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
「うん、美味しい!」
「そ、そんな……雪羊だぞ!?」
「本当だ……骨からもすぐに外れる!?」
「柔らかい……だと……」
口々に驚く皆、頑張って仕込みをした甲斐がある。
「凄いですわね……」
「頑張ったなぁ……春華ちゃんと色々試した甲斐があったよ」
「ありがとうな耀、助かったよ」
「いやいや、あんな美味しそうなお肉、食べれないの地獄だもん」
うんうんと頷く俺、他の人達の目を向けると皆恐る恐るナイフに刃を入れる。
「おぉ……これは……」
「こんなに柔らかくなるとは……」
「歯の弱いワシでも嚙み切れるわい」
口々に喜びの声が湧く、驚かれるとは思って居たけどここまでとは……。
みんな口惜しむ様に食べていく、そして食べきって緊張も解けたのか皆談笑を始める。
「ご歓談中に失礼します、こちら最後のデセール、クリームブリュレでございます、仕上げを致しますので少々お待ちください」
出されたのはまだ炙られていない状態のブリュレである。
全員の前に置かれたのを確認してから席から立つ。
「では、最後の仕上げとして……」
空間収納から聖剣を取りだして手に出した炎を斬ると料理に火が走る、少しして香ばしい匂いが広がった。
「「「「「おぉ!!」」」」」
そして火が消えた後には綺麗に炙られて完成したクリームブリュレが現れた。
作者です。
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